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『小虎の恋模様』
16


「あの頃は家とか、その他にもいろいろとあって、結果的に八つ当たりしちゃったけど、それも含めて会長サンにちゃんと謝罪して、謝罪した上で友達になってってお願いしたんだよ」


睨まれているにも関わらず、吉野は余裕のある笑みを浮かべて三人が求める答えを語る。
そうだよね?、と同意を得る為に小虎へと声をかければ、確かにその通りだった為、コクリと頷いてみせた。
そんな二人のやり取りを見て三人は怪訝な―――草間に関してはもの凄く嫌そうな―――顔を見せる。
だけど、ここで小虎がわざわざ嘘を吐く意味が特にない為、これが真実なのだろうと、認めたくはないが納得するしかなかった。


「そうだ、会長サン。今日一緒に回らない?オレ暇なんだ」

「え?!えっと……」

「残念ですけど、オレ達これから見回りなんで」

「あぁ、そうなの?大変だね」


紀野が代わりに答えれば、特に残念そうという事もない、わざとらしい声音で返す吉野を無視しようと草間が小虎へと声をかけようとした時、吉野が何か思い付いたかの様に、そうだ!!、と声を張り上げる。


「ならオレもついて行こうかな?そうすれば会長サンと一緒に回れるしね」


名案だね、と小虎に笑いかける吉野に小虎はたじろぐが、ずっとこのまま立ち止まったままではいられないし、他三人から出る黒いオーラのプレッシャーから小虎はコクリと承諾してしまった。


「おい、お前なぁ……」

「ひぇっ、だ、だだだって……」

「あのっ」


頷いた小虎を草間が咎めようとしたその時、控えめな声音で誰かが小虎達に声をかけた。
誰だろう?、とそちらを見れば、そこには一人の生徒が申し訳なさそうに頭を下げながら、遅れてすみません!!、と謝罪の言葉を述べる。


「クラスの出し物で少しだけ離れられなくて……」

「あぁ、いい。連絡くれてたし、気にすんな。んで、会長クン」


やって来た生徒の対応を巽が行い、そのやり取りでその生徒は委員会関係の人なのだろうかと予測していれば、巽はその生徒の背を押して小虎の前へと誘導する。
突然、呼ばれた小虎は首を傾げる事になったのだが、そういえば……、と思い当たる節を思い出し、巽の説明を待つ。


「こいつ、一年の風紀委員。予定どおり見回りの最中は会長クンと行動するから宜しく」

「え、あ、えと……」

「宜しくお願いします、先輩」

「あ、えと、あの、その……こ、こちらこそ」


ペコリと丁寧なお辞儀を見せる一年生にならって小虎も慌ててお辞儀を返す。
何故、彼が小虎と共に行動する事になったかというと、草間も小虎の見回りに同行するとはいえ、一応風紀委員の誰かを付けておいた方が、何か問題が起きてしまった時の対応と念の為の小虎の護衛、という目的で事前の打ち合わせで決められていた。
小虎は、一緒に行動する風紀委員の生徒には面倒な役割を担わせてしまう事となって申し訳ないと思ったのだが、周りの皆に心配をかけたくないのでその申し出に頷いたのだ。
そうしてやって来たのが一年生の彼、という訳だ。


「……それじゃあ、そろそろ行動しようか」

「だな。なんかあったら直ぐに連絡しろよ?特に会長クン。遠慮とかいらないからな」

「う、うん」


解散、と紀野と巽が立ち去る際にジロリと二人して吉野を睨み付けたが、痛くも痒くもないといった様子で吉野は笑顔でヒラヒラと二人へと手を振った。
流れで吉野とも行動するハメになってしまい、気が進まない草間ではあったが、小虎に生徒会の仕事をさせない訳にもいかない為、渋々一声かけて四人で行動を開始した。
小虎は、去り際にふと後ろを振り向いて紀野の背中を見る。


(……そういえば、お姉ちゃんが来て有耶無耶になっちゃったけど、紀野君に相田先輩との事、聞くの忘れちゃったな……)


というか今日はまだそんなに会話をしていない事に気付いた小虎は、シュン……、と肩を落としながら、誤解が解ければ良いな、と思った。







吉野の同行許可を出してから数十分。
あれから小虎と草間、風紀委員の一年生、そして吉野は賑わう廊下を辺りを見ながら歩いていた。
周辺でトラブルが起きていないか、困っているクラスはないか、それぞれ確認しつつ、草間は吉野にも目を光らせていた。
そんな草間の視線に気付いていないのか、または気付いていながらも気付いていないフリをしているのか、気にする様子もなく吉野は度々小虎に声をかけつつ、クラスの出し物で販売されている食べ物を買い与えてたりしている。
見回りの最中に買い食いする訳にもいかないのだが、如何せん相手は先輩。
断りづらい上になかなかに断れない性格の小虎は、仕方なく吉野に渡される飲食物を口に含ませる。
時々、草間や一年生にも与えられ、断るのだが容赦なく口に突っ込んできたり、手に持たされたりするので、二人も渋々咀嚼を繰り返した。
見回りをしているとはいえ、こうしてみるとただの普通の先輩後輩が文化祭を見て回っているようにも見えなくもないこの状況に草間は、なんだかなぁ……、と眉間を歪ませる。
草間の心境など知らない小虎はというと、去年の文化祭を思い出し、お勤めとはいえ今年はゆっくり見て回れて良かったなぁ、などと呑気な事を考えていた。


2017/7/14.



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