『小虎の恋模様』
15
宣伝にもなるから格好はそのままでいてね!!、とクラスメート達に言われてしまった為、小虎はセーラー服に草間は軍服のままで教室を出た。
本当は今直ぐにでも着替えたかった小虎だったが、クラスメート達の笑顔に無言の圧力を感じ、頷くしかなかった。
仕方なくそのままの格好に役員の印でもある金色に縁取られた赤い腕章をセーラー服の袖に装着させる。
「……セーラー服の女子(？)が男子校で生徒会の腕章を着けてる不思議な光景……」
「ボク、男なんだけど……」
安全ピンで留められた腕章を確認しながら小虎は溜め息混じりに答える。
準備も出来た事だし、いざ見回りに参ろうかと四人は視線のみで合図を送り、歩き出そうとした矢先、少し離れた位置から、会長サン、と小虎を呼ぶ声が届いた。
疑問に思いつつ振り向いた先にいた人物に、小虎は息を飲む。
「よ、しの先輩……？」
「あぁ、やっぱり会長サンで合ってた？格好が違うから自信なかったんだけどね」
人の波を上手く避けながら駆け寄って来たのは吉野だった。
吉野の姿が現れた瞬間、小虎以外の三人の纏う空気が一瞬で冷えたものに感じる。
小虎だと確信もなく、でも呼びかけた理由を、周りに副会長と風紀委員長である紀野と巽がいた事と、僅かに視認出来た腕章で声をかけたと話す吉野の表情は、三人が警戒するどころか疑問に思わせる程穏やかな笑みだった。
そんな吉野と会話を交わす小虎は、やばいどうしよう……、という焦りが全面的に表れていた。
それもその筈。新入生歓迎会の時の事情を知る者で吉野が小虎にこんな風に接触してくる理由を誰一人として聞かされていないのだから。
「会長サンのクラスはコスプレ喫茶なんだ。結構似合ってるね。可愛いよ」
「え、あ、あの……ありがとう、ございま、す？」
会長サンは小柄で元々黒髪だから長くても違和感ないね、と小虎の姿を褒める吉野に、複雑な心境でお礼を述べる小虎。
そんな二人のやり取りに、遂にしびれを切らした草間が小虎と吉野の間に割り入った。
「つーか、あんたなんで普通に小虎と仲良さ気な訳？あんた、新歓の時こいつに酷い事したんじゃねーのかよ」
「……あぁ、誰かと思えば草間じゃないか。らしくない格好をしているから気付かなかったよ」
「テメェ……いい度胸じゃねーか……」
眉間に青筋を浮かべる草間に、背に隠された小虎はアワアワと慌て出す。
以前ヤンチャしていた経験を持つ草間でも、流石に一般人も沢山いる中で相手に掴みかかろうとはせずに、ただ静かに拳をきつく握り込んで怒りを鎮めている。
その判断に風紀委員長の巽は動く事はせずに、自身も何故接触してきたのかという疑問を解く為に静かに二人のやり取りを見守った。
「知らないのかい？会長サンとオレは友達になったんだよ。ねぇ、会長サン？」
「はぁ?!友達になったって……小虎、それ本当か？」
「あ、えと、夏休みの時に……」
「夏やす……あっ!!あん時お前こいつと会ってたから様子が変だったのかよ?!」
「ご、ごめんなさ……!!」
夏休みの補習期間中、草間がおじいちゃん先生に片付けと荷物を職員室に運ぶのを手伝う様に頼まれたあの日、一緒に留守番していて欲しいと江ノ島に頼んだにも関わらず、江ノ島は少しの間呼び出しを受けて小虎の元から離れていた。
その時、なんとも言えない不安感を感じて慌てて教室に戻ってみたが、そこには小虎の姿しかなく、心配は杞憂に終わったと思っていたが、小虎の様子が少しおかしい事に草間は気付いた。
何かあったのかと聞き出そうと試みるも小虎は頑なに口を閉ざすばかりで、諦めて後日話すようにというやり取りを交わした。
が、それ以降、小虎はその時に何があったかを話そうとせずに今日まできてしまっていた、という状況だ。
真実を知ってしまえば確かに話しがたい出来事だとは思う。
あんなに周りからさんざん一人になるなやら気を付けるように言われてきたというのに、新入生歓迎会以降、接触がなく少し気が緩んでいたとしてもうっかり一人になったタイミングで要注意人物と指定されている吉野と接触してしまったなど、小虎の性格もあって簡単に話せる訳もない。
盛大な溜め息を吐きつつ、草間は小虎の頭にチョップをくらわす。
「はわっ!!」
「オレ、後日話せって言った筈だよな？他の奴には言いづらくても、オレには話してくれたって良いだろ？」
「ご、ごめんね、草間君……」
頭を擦りながら謝る小虎に、過ぎてしまった事はもうしょうがないと草間は今度は小さく溜め息を吐いた。
一先ず、どういった事情で小虎に接触し、友達なんぞになったのか、それらを詳しく聞き出さないとならない。
それは紀野や巽も同じだったらしく、三人で吉野を睨み付け、事情を話す様無言で訴えた。
2017/5/18.
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