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『小虎の恋模様』
13


ザワザワと賑わい続ける蓮見学園の文化祭。
一難去ってまた一難、大袈裟な言い方になるが、しかし小虎にとっては大袈裟とは言い難い状況が続き、それは現在も続く。
更に言うと、一難はまだ訪れてくる様で……。


「か、賀集君!!きみ指定のお客さんが来てるよ!!」

「綺麗な人だったけど、知り合いか?」

「へ?」


草間と隅っこに縮こまって話していた小虎の元へ、クラスメートが慌てる様にやって来た。
その様子に首を傾げたのは小虎だけでなく、草間や少し離れたテーブルに着いている紀野や巽も不思議そうにしていた。
誰が来たのか、クラスメートの反応からして学園の知り合いではないらしい。
では誰が……、そう思って立ち上がろうとした時、不意にカシャッ、という機械音が鳴った。


「?…………?!」

「はぁい、小虎」


携帯を片手にニコニコ笑顔でそこにいたのは、紛れもない小虎の姉だった。
可愛いー!!、と勢い良く抱き付いた事で教室内のザワめきが一際大きくなった。


「お、おおお姉ちゃん?!」

「本当はお母さんも来る筈だったんだけどね、用事が出来ちゃって来れなくなっちゃったのよねぇ。でも良いもの撮れたわ」

「あ、姉さんご無沙汰っす」

「久し振りね〜、奏太君」


君も似合ってるよ!!、と小虎に抱き付いたまま草間とハイタッチする姉に、また教室内のザワめきが大きくなる。
近くで見ていた紀野と巽も、驚いた様子を見せている。


「あ、そうだ。今度はお姉ちゃんと一緒に撮りましょ」

「お、お姉ちゃん、写真撮影はダメなんだよ?」

「えー?」


小虎の注意に頬を脹らますが、ササッ、と素早い動きで姉弟(妹?)ツーショット写真を、ちゃっかりと手に入れた姉に、周りの生徒一同、すげぇ……、と気持ちが一つになった。


「とりあえず、来たからにはご奉仕して貰わないとね!!小虎"ちゃん"、紅茶とチーズケーキを一つお願いね!!」

「うぅ……。か、かしこまりました……」

「違うわ、小虎。お姉ちゃんはお客様と言うより、"お姉ちゃん"として来ているの。だからそんなかしこまんないで。はい、さんはい」

「…………ちょっと待っててね、お姉ちゃん……」


完全なる姉のペースに、小虎は小さく溜め息を吐きながらオーダーを裏方に伝える為に踵を返した。
草間が席はどうするか、そう考えていると、姉の視線の先が紀野と巽に向いている事に気付く。


「相席しても良いかしら?」

「あ、どうぞ」

「ごめんなさいね?初対面なのに図々しくて」

「いえいえ。にしても会長クンにこんな美人なお姉さんがいたなんて、初耳ですよ」

「ふふっ。巽君はお世辞が上手いのね」

「お世辞じゃないですよー……って、あれ?オレお姉さんに名乗りましたっけ?」


首を傾げる巽に対してクスクスと笑いながら傍らに立つ草間をチラリと見やれば、草間はあからさまに視線を逸らした。
別に名前を教える位どうって事はないが、何故教えたのか、その経緯が気になり草間を睨み付ける。


「えーっと……」

「夏休みに奏太君が遊びに来てね。小虎ったら余り学校の事話してくれないのよ。だから小虎が学校でどんなかなって奏太君にこっそり教えて貰ったの。その時に名前も聞いてね。勿論、紀野君の事も聞いたの。勝手にごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です。改めまして副会長の紀野です」

「風紀委員長の巽です」

「二人とも、これからも小虎をよろしくね」


あの子、少し気が弱いから……、そう心配そうな声音で、だけど小虎を見つめる眼差しは温かく、優しさの含まれたものだった。


2017/2/19.



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