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『小虎の恋模様』
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準備に慌ただしく賑わっていた蓮見学園は、今日はまた別の理由で賑わっていた。

―――蓮見学園文化祭、開幕です。



一般客の入場が行われる一時間前に開会式を行い、それぞれが催しものの準備に取り掛かり、蓮見学園の大きな門が開かれるのと同時に文化祭を見に来た一般客が波の様に入場を済ました。
あちらこちらで呼びかけの声が響き、校舎内でも生徒と一般客がすれ違い、ザワザワと音が途切れる事はなかった。


「いらっしゃいませー!!3-Cではクレープ屋さんやってまーす!!」

「手作り迷路はこちらでーす!!」

「一回りしたあとはご休憩にプラネタリウムで是非癒していってくださーい!!」


そんな呼びかけが響き渡る中、小虎のクラスでも客引きの呼びかけはされていて、文化祭を楽しんでいる生徒も一般客も足を運び、なかなかに繁盛していた。
そんな2-Dに訪れた生徒が三人。


「……これはまた」

「ほ〜ら、賀集。"いらっしゃいませ"でしょ〜?」

「うぅ……い、いらっしゃ……ませぇ……」

「大丈夫です。似合ってますよ、先輩」


2-Dに来たのは、クラスの出し物で比較的自由が利き、見回りの合間にやって来た遠野と綾小路と山内だ。
入った瞬間、入口でバッタリと小虎と遭遇し、バッチリと目が合ってしまったが最後、小虎は逃げ出す事も出来ずに遠野に腕を捕られてしまった。
涙目になりながら来店した三人を迎い入れた小虎を、遠野はニヤニヤしながら、綾小路はほんわりと微笑みながら、山内は感心した様な表情で見ている。
文化祭当日までのお楽しみと言われ、いざ当日の朝に手渡された衣装に身を包む小虎は小刻みに肩を震わせていた。
コスプレ喫茶となっている教室内では、動物の着ぐるみを着ている者、海賊になっている者、妖精姿、魔女、白衣姿、猫耳etc...、といった様々な衣装を身に纏った生徒が教室内を縦横無尽に駆け回っている。
そんな色とりどりなラインナップの中、小虎に用意されていた衣装というのは、至ってシンプルなセーラー服に、オプションとしてハーフアップにされた黒髪ロングのウィッグ。
セーラー服は、紺を基調とし、襟元と袖口に白のダブルライン、明るすぎない赤いスカーフに紺色のハイソックス。
何処か懐かしさを感じさせる昔ながらのソレとの違いを上げるとするならば、膝上十二cmの短いスカート位だろう。
因みに何故十二cmなのかというと、製作前に膝上十pと十五cmのどちらかになる予定だったのだが、「十pだと物足りない!!十五cmだと着て貰えないかも?!」とギリギリまで悩んだ末の十二cmだったりする。
そして至ってシンプルな衣装だというのに、何故今朝まで内緒にしてきたかと言うと、スカート丈もそうだが、小虎が生徒会の仕事で教室を抜けていた間にコッソリ衣装が決められ、それを知ってしまえば、断られる可能性を危惧して秘密にしていたのだった。
そんな裏話なんて知りもしない小虎にしてみれば、スカート丈が十pも十二cmも十五cmも全部アウトな短さな上に当日に手渡された為、結果がどうなってもドン底に陥る事に変わりはないのだが。


「わ〜い!!生足ぃ〜」

「わわわ……っ、と、遠野君、捲れちゃ……!!」

「お客様ー、当店ではスタッフへのお触り行為は受け付けておりませーん」


小虎の太ももを触ろうとする遠野に慌てる小虎の元へ、軍服を纏った草間が二人の間を割る様にして止めに入った。


2016/12/31.



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