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『小虎の恋模様』
9 Side 山内


あぁ……どうしよう、そう思ってチラリと巽先輩を見れば、そっぽ向いて知らん顔してた。
……逃げましたね、風紀委員長……。


「……草間はいないのか?」

「…………いないみたいです。オレ達も見かけた時からお二人のようでしたし」


恐る恐る答えれば、……そう、と低く冷たく返されて、オレも視線を斜め下にサッ、と逸らした。
何故、巽先輩が怪訝かつ気まずそうな表情で眺めていたのか、なんとなくわかった気がした。
でも不確かなままだから、紀野先輩を一度見てから再び外に視線を戻せば、下にいる相田先輩がこちらを見た様に見えた。
それなりの距離があるのだから気のせいか?、そう思ったが、どうやら違ったようで。
少しだけ困った様に見える相田先輩の表情が一瞬向けられたかと思えば、再び視線を外され、賀集先輩の頭に手を乗せて撫で始めた。
それを三人で見つめていれば、相田先輩が賀集先輩との距離を更に縮め、その近さに頬に熱が集まった。
何故ならば、オレ達のいる位置からは、まるで二人がキスを交わしている様に見えたからだ。
その光景に、見てはいけないものを見てしまったという罪悪感と、羞恥心から心臓が少し早足になったが、隣からゴッ!!、という鈍く痛そうな音が響いた為、一気に熱が冷めた。
恐々と隣に視線を向ければ、壁に紀野先輩の拳が叩き付けられていた。


「…………」

「気持ちはわからなくもないが、とりあえず落ち着け……」


補佐君がビビってるからさ……、と紀野先輩を宥める巽先輩。
ビビってるのは事実だが、何も言わなくても良いじゃないか……。
そう言い出す雰囲気じゃないから視線を逸らすだけにとどめたけれど、隣から漂うオーラが怖くて逃げ出したくなった。
相田先輩、絶対にわざとだろうな……目、合ったし。
こっちの事情なんてお構いなしに相田先輩は柔らかい表情を賀集先輩に向けている。
賀集先輩は頭を両手で押さえていた。
頭、というよりは、あの位置だと額辺りだろうか?―――という事は……。


(デコチューだったのかな、賀集先輩……)


紀野先輩に伝えるべきか……、でも相田先輩が賀集先輩に―――箇所は兎も角―――キスをした事には変わりない、と突っぱねられるだろうか……。
そんな事を考えていれば、紀野先輩が踵を返して窓から離れてしまった。


「あっ、紀野先輩!!」

「……先に教室戻ってる」

「あーあ……。まぁ、その内機嫌戻るだろ」


補佐君も余り気にすんなよ、そう巽先輩は声をかけてくれたけれど、紀野先輩と賀集先輩の今後が心配で気にしない訳にもいかなかった。
といってもオレに何が出来るって訳でもないから―――こればかりは当人同士の問題でもある訳だし―――様子見しかないのがもどかしいな……。


2016/12/10.



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あきゅろす。
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