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『小虎の恋模様』
8 Side 山内


「……あそこの二人は何をしていると思う?」

「……えっ、えーと……、とりあえず、紀野先輩には見せられない光景、ですかね……」

「だな……」


生徒会顧問の岩代先生から、生徒会と風紀委員用の文化祭での書類を配って欲しいと頼まれて、まずは二年生の先輩方を訪ねようと向かっている最中に、偶然階段の所で巽先輩に遭遇した。
事情を説明すれば、風紀委員用はこっちで配っとくわ、と言って貰えて、お礼を言いながら風紀委員用の書類を手渡しているその時に、事件は起きた。
"事件"と言うと大げさな表現と思うかもしれないが、実際問題"事件"なのだ。
オレ達が今いる場所は一学年と二学年の階を繋ぐ階段で、階段の形はよくある折り返し階段に踊り場部分には窓があるタイプ。
話の途中で巽先輩が窓の方に視線を投げたので、同じ様に外を見れば、少し離れた位置にある木の陰に二人の生徒がいた。
良く見るとその人達は、賀集先輩と前会長を務められていたという、相田先輩だった。
どうして二人が一緒にいるのだろうか、とか、草間先輩は傍にいないのだろうか、とかいろいろ疑問に思ったのは、どうやらオレだけではなく巽先輩もだったようで、少し眉を顰めながら、何してんだあの人……、と、どうやら相田先輩に対して呟いていた。
オレ自身としては相田先輩との関わりがほぼない為、あの人は先輩だな、程度にしか思わないけど、普段の生徒会室での賀集先輩や紀野先輩のやり取りを見ている為か、若干気になる。
見ていればわかる。紀野先輩が賀集先輩の事が好きだって事。
そして賀集先輩もそうだって事も気付いている。
二人の様子は、どこからどう見ても甘い。
紀野先輩の態度が、賀集先輩と他の人達とでは雲泥の差なのは、恐らく補佐をしていなかったとしても、わかりやすい程だ。
ただ、オレは賀集先輩が紀野先輩や何時も一緒にいる草間先輩とは違う人と一緒にいる光景は珍しいとは思うが、巽先輩の様な、そこまで怪訝な表情で見つめる理由に関しては謎だった。
どうしたのだろうか、そう思ってチラリと巽先輩に視線を向けようとした時、コツリと足音が一つ聞こえて、振り向いた先にいた人物に頬が引き攣った。


「お前らはここで何をしているんだ?」


足音と声の主に気付いた巽先輩も明らかに、まずい……、といった表情で、ぎこちなく振り返る。
オレ達の視線の先にいたのは―――紀野先輩。
何故今ここに来たんですか?、とつい言いそうになって口をつぐむ。
それは巽先輩も同じらしく、ん"っん"ー、とわざとらしく咳き込んで視線を逸らしたのを、視界の隅で捉えた。
首を傾げる紀野先輩がオレ達の元に歩みを進めて来た為、慌てて二人して止めに入る。


「あー!!……っと、薊!!お前こそどうしたよ?こんな所まで!!」

「あ、ああの!!オレ達は……その、そう!!書類!!岩代先生に頼まれました書類を配ってまして!!」

「そうそう!!今、補佐君から風紀委員分を貰ってよ」


あはははっ、と明らかに怪しい感じに終わった為か、紀野先輩は怪訝な表情で、……そうか、と呟いた。
このまま何事もなく全員で立ち去れば窓の外の光景に気付かれずに済むぞ、と巽先輩とアイコンタクトを交わしてササッ、と窓から離れる一瞬早く、紀野先輩が窓の側に立った。
流れる様な動きにびっくりして、うっかり見届けてしまったが最後、紀野先輩の視界にバッチリと賀集先輩達の姿を視認されてしまった。


2016/11/19.



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