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『小虎の恋模様』
7


相田の一言で硬直する小虎を見て、相田は苦笑する。
その表情が、冗談を言っている訳ではないと物語っていて、小虎はコクリと喉を鳴らす。
生まれて初めて告白され―――それが同性からというのはこの際置いといて―――真剣な面持ちで伝えてきた目の前の相手に、どう答えれば良いのか、小虎は頭を悩ませた。
答え、というのは小虎の中ではほぼ決まっているのだが、それをどう伝えるのが最善か、それがわからない。
小虎は、冷や汗を全身に感じながら、視線を彷徨わせながら、しどろもどろに言葉を紡ぐ。


「あ、のっ、えと……、その……」

「別にそんな悩む必要ねぇだろ?キッパリ断ってくれりゃ良いんだし」

「えっ?!……あの、なんで……」

「いや、なんでって……。お前、紀野の事が好きなんだろ?」

「ふぁっ?!!!」


相田の発言に小虎は驚きのあまり叫んだ。
顔を真っ赤にしてオロオロする様を見て、新役員決定後の補佐期間中から知ってたぞ?、と相田は苦笑しながら更に言う。
補佐期間中といえば、小虎が役員に選ばれたと生徒会室で発表されてからの相田達が正式に生徒会役員の引退する期間中の時だ。
確かにその頃、既に小虎は紀野に好意を寄せていた為、度々意識してきた事はあったが、まさか他人にまでバレる程わかりやすかったのか、そう思うと恥ずかしくて、小虎は真っ赤になった顔を俯かせた。
あぁ、どうしよう……、そう頭を抱えていれば頭上からフッ、と小さく吹き出す音が聞こえて、恐る恐る顔を上げて見れば、相田が肩を震わせながら笑っていた。


「今更すぎるだろ。つーか役員関係の奴なら皆知ってるぜ?」

「えっ、うそ?!……え?じゃ、じゃあ、紀野君も?!」

「あー……それは自分で確かめな」


それはわざわざオレが言う事でもねぇし、と苦笑交じりに言う相田に、その通りだと小虎は小さな声で謝罪した。
生徒会関係者といったら綾小路を含めた前生徒会役員の三年生に、現生徒会役員、それに顧問の岩代……下手したら風紀委員の人にもバレてるのかもしれない。
その事実と、更に紀野本人にも気付かれている可能性がある事を認識した小虎は、自分のこれまでの行いを恥じた。
どうか紀野本人にはバレてませんように、そう強く願う小虎の頭をポンと優しく撫でる相田に、小虎は意識を戻す。
今は、紀野にバレていない事を願うよりも相田の小虎への気持ちの返事を考えないといけない事を、小虎は慌てて思い出した。
相田は、小虎の気持ちが誰に向いているのかを知っている上で告白し、更には潔くフってくれと言った。
だからといってそれで良いのかな、と小虎は悩む。
初めての告白で、初めて相手から寄せられる好意を断るという、初めてばかりのこの状況で、何が一番良いのか、ぐるぐると考え込んでしまう。
それでも、上手い事良い答え方なんて到底思い付かず、小虎は眉を下げておずおずと声を発した。


「あの……その……」

「うん。ゆっくりで良いぜ?」

「っ、せ、先輩の気持ち……は、嬉しいです。ボク、誰かにそう思って貰った事、なかったんで……。でも、あの……」


この先言うべき言葉は決まっている。
相田も、小虎の答えを知っているからこそ、急かしたりせずに返事を待つ。
その時の相田の表情は、さっきまで良く見られた苦笑とかではなく、穏やかで落ち着いた顔付きをしていた。
その表情に、小虎の胸の辺りがギュッ、と締め付けられ、言葉に詰まりそうになりながらも意を決して震える唇で続きを紡いだ。


「嬉しい、ですけど……先輩のお気持ち、には……応えられません……。ごめんなさい……」


座ったまま頭を下げる小虎と、それを見つめる相田との間に暫し静寂が続く。
申し訳ない、他に言い方があったんじゃないのか、相田先輩は今どんな表情している?、怖い。
いろんな思いが脳内を駆け巡ったが、ありがとう、という相田の一言によって静寂は破られた。
小虎が顔を上げれば、ほんの少し困った表情の相田と視線がぶつかった。


「そんな顔すんなって。結果なんてわかってたんだし」

「っ、ご、ごめんなさ……」

「謝るのもナシ!!オレとしては知って貰えただけでも十分なんだ」


まだ項垂れる小虎の頭を優しく撫でる手に、目の前の先輩の優しさがジワリと胸の中に広がって、小虎は涙が出そうになったのをなんとか堪えた。
もしかしたらもうこんな風に撫でて貰える事もなくなってしまうのか、そんな事を寂しく思い、自分勝手すぎるその考えに呆れてしまった。
そうなる結果に持って行ったのは、自分自身だというのに、と。


「ま、フってフラれた仲だけどよ、これからも普通に接してくれると嬉しいかな」

「……良いんです、か?」

「そりゃ、まぁ……んー……。ちっと辛ぇけど、でもだからってこれで終わりっつー方が、嫌だしな。オレの我が儘だけどよ」


お前さえよければだけど、と尋ねてくる相田に、小虎は迷わずにコクリと頷く。
お互いに気まずい雰囲気は拭えないだろうが、相田の言う通り、小虎もこれがきっかけで相田との接点がなくなってしまうのは寂しいと思っていた。
相田は、己の我が儘だとは言ったが、小虎も十分に身勝手に思っていたから相田だけの我が儘ではない、そう少しでも伝われば良いな、と願った。


「あと、最後に一つ我が儘良いか?」

「?なんで―――……」


なんですか?、と尋ねようとした時、小虎の返事を待つ事なく相田が小虎の前髪を待ち上げ、現れた額に唇を寄せた。
軽く触れるだけのキスは、それでも少しの間そのままに、小虎は目を大きく見開いてそれを受け止めた。
数秒経って離れていく感触に、つめた息を思い出した様に一つは吐き、触れていた箇所に残る感触にドキドキと騒ぐ心臓を沈める事も出来ず、額を押さえ、真っ赤な顔のまま相田を見遣る。


「これ位は許してくれな?」


そう呟いた相田の表情は、何処かスッキリとしたものだった。


2016/10/9.



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あきゅろす。
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