[携帯モード] [URL送信]

『小虎の恋模様』
6


その後も、なんでもない様な会話をぽつぽつと交わしていれば時間は穏やかに進んでいった。
そよそよと髪を撫でる穏やかな風が心地良く、堪能していれば、ふと髪に相田の手が伸ばされる。
なんだろう、とそれを様子見していれば、相田の手には一枚の葉っぱがつままれていた。


「あ、ありがとうございます……」

「穏やかだな」


お礼を言えば、つまんだ葉っぱを落としながらニコリと微笑む相田と目が合う。
そうですね、と返事を返そうと口を開こうとしたそれよりも一瞬早く、上がった指先が小虎の頬をスルリとなぞる。
ピクリと肩を揺らし小さく首を傾げて見せれば、相田の瞳が、まるで愛おしいものを見ているかの様な優しさが含まれている事に小虎はハッ、と気付く。


「……ッ、あ、の……」

「お前はちゃんとやってるよ」

「……え?」

「会長の務め」


唐突に発せられた言葉を聞き返せば、改めて慰められているという事がわかった。
役員に選ばれた時、会計ってだけでも全力で拒否をして、更にそのあと流れで会長になった小虎は、切り替え前に補佐として相田に就いていたとはいえ、初めてだらけで戸惑っていた。
その後、新学期が始まり、本格的に始動された新しい生徒会役員達は、お互いに協力し合って―――小虎の為も含めて―――ここまで乗り越えてきた。
その期間中も四苦八苦しただろうし、その都度悩んだりもしただろう。
それでもここまで精一杯努力をして、その頑張りが今の学園の日常に繋がっている事は一目瞭然。
小虎はミスをしても全く頑張っていない訳ではないのだから長く引きずらなくても良いと、そういう意味で相田は励ましてくれたのだ。
何かと気にかけて貰っていた為、気恥ずかしさとムズ痒さがあるが、それでも嬉しく思った小虎は頬を染め、再び礼を述べた。
若干の気まずさから視線を逸らしてはいるが、相田の指先は相変わらず小虎の頬へと添えられていて、どちらとも動きを見せずに静寂に包まれる中、小虎が意を決して相田に声をかけようと視線を戻すと、相田の顔が何時の間にか間近まで迫って来ていた。
ビクリと肩を大きく揺らし、息をつめてその様子を見届けていた小虎は、ハッ、と意識を戻して慌てる様に相田の胸元に手を置く。


「っ、せ、せせ先輩?!あああの……!!」

「オレはさ、お前が会長職継いでくれたの、嬉しい反面、近くで見れない事を残念に思ってる」

「……?」


間近にある相田の表情が、ふと寂しそうに歪められたかと思いきや、再び真剣みを帯びて真っ直ぐ小虎を見つめる。
小虎もその瞳から逃れる事が出来ず、その距離の近さに背中を伝う何かを感じながら真っ直ぐに見つめ返した。


「頑張ってる姿を見るとか、悩み事を一緒に解決したりとか……、そういった事を一緒に出来ないのが残念に思うんだよ。オレ、お前の事好きだからさ」

「…………え?」

「あぁ、そうそう。オレ賀集が好きなんだよ。後輩としてって意味もあるけど、どっちかっていうと恋愛的な意味でな」


会話の中、流れる様に言われた言葉に、小虎は目を見開く。
今、目の前の人物はなんと言ったか、そう考えたあと、好きだと言われた事を頭の中で反芻する。
"恋愛的な意味で好き"―――それは何時か姉や草間達がそうではないかと話していた事に見事に当て嵌まった、不確かなものが確実なものに変わった瞬間だった。


2016/9/17.



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!