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『小虎の恋模様』
5


連れて来られた場所は校舎裏な為か、文化祭準備に賑わう生徒達の声は遠く、静かなものだった。
木陰の一つに腰を下ろした相田にならって小虎も横に座り、暫しの休息をとる。
内心では教室に戻らないと草間やクラスメート達に心配と迷惑をかけてしまうと思っている為、休息出来ているかは不明だが。
静かな空間には風に撫でられ揺れる葉の音だけが辺りを包み込んで、天候の良さも相まってのどかなものだ。
小虎は、そんなのどかな風景を少しだけ楽しく感じた。


「結構落ち着くだろ?ここ」

「は、はい。校舎裏なんて滅多に来ないんで知りませんでした」

「普段はガラの悪い奴等がたむろってたりするからな。あんまおススメはしねぇな」

「え"っ、だ、大丈夫なんですか……?」

「今は平気だろ。あいつ等も文化祭準備に忙しいだろうよ」


何気に行事事には積極的なんだよなー、なんて笑いながら言う相田に、意外なものだと小虎は感心してしまった。
ガラの悪い、と言われてしまえば思い浮かぶのは一つしかない訳で、そんな人達は行事事には興味がなく、積極的に取り組む事もないものだと勝手に思っていた。
偏見や想像で相手を判断してしまった事に小虎は心の中で謝罪を零し、反省した。


「そーいや、さっき生徒会室で何してたんだ?」

「あ、……えっと」


言いにくそうに口籠る小虎に、相田は催促せずに待つ。
そうしていれば、小虎は観念した様に、先程の生徒会室での事を説明し始めた。


「……それで、迷惑かけちゃいまして……」

「で、凹んでる、と」

「…………」


改めて図星をつかれ、首(こうべ)を垂れるその姿に相田は、気にするな、と一言を添えて小虎の背中をポンと叩く。


「ミスなんて誰にでもある事なんだ。それにそいつ等だって今頃取りに来てんのはおかしいだろ。普通はもっと前に気付くだろうし」

「で、でも、手間を取らせてしまったのも事実ですし……」

「気にすんなよ。オレだって文化祭の話じゃねぇけど、他の学校行事で全学年に配布する予定の物を丸っと忘れて二日でなんとかした事あったし」

「……そ、れは凄いですね」

「あの時はまじでビビった」


今では良い思い出だけどな、と苦笑交じりに話す相田に、ほんの少しだけ小虎の肩の荷が軽くなった気がした。
自分なんかよりも立派な活躍を見せてきた前生徒会長である相田でも失敗する事もあるんだな、と少し笑みが零れる。
そりゃあ、相田も人間なのだからミスの一つや二つあるのは当然だ。完全なる完璧な人間などいないのだから。
ミスを犯してショゲている暇があるなら、それらを反省し、次は失敗しないように努める事が今は大切なのだ。
そう考えを改めた小虎は、ありがとうございます、と小さく呟けば、相田の耳には届いたらしく、無理なく頑張れよ、と笑みを返された。


2016/8/27.



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