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『小虎の恋模様』
4


「ええっと……」


教室を出て小虎は三年生の生徒数人と共に生徒会室に来ていた。
理由は、一緒に来た生徒達のクラスで必要な暗幕の貸し出しが一枚足りないという要請を受け、確認をする為に来ていたのだ。
生徒会長席に置かれた、各教室ごとに各備品の貸し出しを記した用紙には、暗幕を使用する教室の数と、貸し出し申請を受けた時の枚数と配布した枚数が記されており、それぞれがちゃんと管理されている様にはなっている。
確かに要請してきた生徒達のクラスは、暗幕の希望枚数と配布枚数の確認はされてある。
配布の際に一枚忘れてしまったのだろうか、そう思って小虎達は今度は備品等が置かれている倉庫に向かった。
配布した申請分の枚数と在庫の確認をして、在庫の方に一枚多い事に気付いた小虎は、やはり配布した際、一枚少なく渡してしまったのだと肩を落とした。


「ご、ごごごめんなさい……!!ボクの不手際で……ご迷惑おかけしましたッ」

「あぁ、あったんなら良いよ」

「暗幕取りに来た時、人多かったもんね。でも、次からは気を付けた方が良いよ」

「ご、ごめんなさい……」


慌てて謝れば、気にしないで、と優しい声音で言葉をかけられた。
配布ミスした事を責められると思っていた小虎は、先輩方の反応に少しばかり不思議に感じた。
小虎は、確かに投票プラス教師陣の評価の総合結果で生徒会入りをしたが、会長への就任後、周りからの反応は良いとは言い難いもので、そんな小虎に溜め息を吐く訳でもなく、責め立てる事もなく終わり、首を傾げてしまうのも仕方がないと思う。
それでも配布の際に暗幕を担当していたのは小虎で、実際に配布ミスを起こしてしまったのも事実。
責められなかったとはいえ、落ち込むのも無理はない。
そんな小虎に気付かずに暗幕を受け取った生徒達はそのまま教室へ戻って行ってしまった。


(……次から、は、気を付けよ……)


きつく噛みしめていた唇を解き、重い溜め息を一つ零した。
そして、ふと今一人でいる事に気付き、慌てて教室に向けて足を動かした。
教室を出る際、草間が付いて行くと申し出たのだが、D組も文化祭に向けて準備を進める中、二人も退出する訳にもいかないと思い、小虎は断りを入れていた。
それに他のクラスの生徒とはいえ、一人で行動する訳でもないので、大丈夫だろうという理由も加えて草間に伝えていたので、今一人になるのは断りを入れた手前、まずい。
夏休みの補習以降、吉野との接触はないにしても何時また出くわすかわからない以上、草間や生徒会のメンバーとの決まり事を守って、少しでも彼等の心配を減らさなくては。
そう思い、小虎は足早に教室を目指した。
だが、急ぎ足だった為、廊下の角を曲がった際に進行方向からこちらに向かって来ていた誰かとぶつかってしまい、小虎の身体がよろめいた。


「っ、……おっと」

「あ、わわッ……」


よろけた身体が倒れる前に腕を掴まれ、なんとか踏ん張る事が出来た小虎は、掴まれた腕を辿って相手の顔を確認する。


「……相田先輩」

「おー、悪かったな。どっか痛めてないか?」

「だ、大丈夫です。ごめんなさい、急いでて……先輩は大丈夫でした?」

「オレはほら、お前よりは背あるし頑丈だからな」

「う"ぅ……ひ、酷い……」


冗談だ、と声を上げて笑う相田に対し小虎はムスリと唇を尖らせる。


「珍しいな、お前が一人でいるの。こっちになんか用でもあったのか?」

「あ……、備品の貸し出しの事でちょっと……」

「ふーん。んでこれから教室戻るところか?」

「あ、はい」


なるほど、と呟きながら顎に手を添えて考え込む相田に小虎は首を傾げた。
そんな小虎を見て相田は、ニマリと口元に弧を描く。


「んじゃ、教室行く前にちょっくら付き合え」

「え?……で、でも先輩もクラスの準備……」

「オレのクラスは展示だからそんな準備かかんねんだよ。だから一人位ちょっと抜けてても問題ねぇよ」

「ええええ〜……」


それは元生徒会長の言葉とは思えないもので、小虎は呆れた様な声を上げた。
それに相田のクラスの準備が大丈夫であっても、小虎のクラスは今も準備に追われている状況で、本来小虎は直ぐに戻って手伝わないといけないのだ。
だが、そんな事を気にする素振りも見せない相田は、決定事項だという調子で小虎の手を引いて校舎裏の木陰に連れて行ったのだった。


2016/8/11.



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