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『小虎の恋模様』
3


文化祭当日まであと二日となり、学園は本格的に当日に向けて取り掛かっていた。
事前に頼んでいたパンフレットや招待券も一週間前には学園に届き、招待券はそれぞれに配られ、あとは準備だけという状況である。
その為、部活動も休みとなり、放課後の校舎内の賑わいは何時もより激しく、活気に満ちていた。


「あ、賀集は午前担当で良いんだよな?」

「う、うん。お願いします」

「おー、オレもオレも」

「草間、な。あと午前担当はー……」


改めて確認を取るクラス委員長に頷き、クラス委員長は"午前・午後担当分担表"と書かれた紙にマジックで名前を記入していく。
これを裏方に張り出しておけば今誰が接客をしているか、休憩しているのは誰か、サボってたりしていないかを一目でわかる様にしている。
文化祭当日は生徒会の仕事も見回りや、何かあれば風紀委員と一緒に対処する事を任されている為、比較的出番の少ない午前中を担当したいと小虎は事前にお願いしていた。
まぁ、いまだになんの衣装を用意されているのかわからないという理由と、なるべく早く引っ込みたいという気持ちもあっての午前を希望したとも言えるのだが。
そして小虎に合わせて草間も午前中を希望し、午後は休憩兼呼び込みをする事になっている。


「んあーッ!!出来たぁー!!」


突然、数人の生徒が教室のドアを勢い良く開け、叫びながら入って来た為、教室内にいた全員がビクリと肩を揺らした。
入って来た生徒はD組の生徒で、その手には色とりどりの布の塊を抱えていた。
その様子から彼等は衣装製作担当だとわかり、彼等は教卓の上に持っていた布の塊をドサリと置いて、ドヤ顔でクラスメート達を見る。


「当日接客担当の着る衣装出来上がりました!!手直し必要かどうか確認したいので、試着お願いしまーす!!」


そう衣装製作担当が告げれば、出来たのかー!!お疲れ様ー!!、とクラス全員で労いの言葉を投げかける。
接客を担当している生徒達は教卓の方へ足を運び、それぞれ担当する衣装を手渡され早速試着に入る。
既に着ているシャツの上から着て確認を取る者や、スラックスの上からスカートを履いて長さを見る者と、それぞれ異なったやり方で試着する中、小虎だけ担当する衣装が手渡されなかった。


「あ、あの、ボクのは……?」

「ごめん、賀集君。君のはまだ未完成でさ……いろいろ手を加えてたら今日には間に合わなかったの」

「もしかしたら文化祭前日の放課後までかかっちゃうかもしれなくて……」

「そ、なの?でも試着……」

「「「本番の時が試着だね」」」


それは試着とは言わないのでは?、と小虎は思ったが、何故か不思議と良い笑顔で言ってのける衣装製作担当に、……わかった、とコクリと頷いた。
文化祭当日までなんの衣装を着るのかわからないという現状もどうなんだとは思うが、何故だか気合を入れて製作してもらっている様なので小虎は何も言えなかった。
そして何故自分の衣装をそんなにも気合を入れて作るのか不思議でならない小虎は、小さく溜め息を零して周りを見る。
衣装製作担当が作ったそれぞれのコスプレ衣装は十分に手が込んでいて、手作りには思えない程の仕上がりに小虎は感心した。
裁縫等、そういったものが比較的得意な生徒に担当してもらってはいたが、まさかここまでクオリティの高い衣装を完成させてくるとは、驚きだ。
その完成具合にクラスメート達も満足そうにしている。


「なぁ、ここってこのボタンでとめんの?」

「ッ、う、うん!!あ、こっち先にとめた方が良いよ」

「あ、そか。サンキュー」


横でそんな会話が聞こえて振り向けば、コスプレ衣装を着た草間が衣装製作担当の一人と着方について話をしていた。
そんな草間の格好は深緑色を主に、肩等の装飾品に金を使用された軍服風の衣装を纏っていた。
そんな草間の姿を、声をかけられた衣装製作担当の生徒が頬を染めながら見つめている。
深緑色の軍服に山吹色の髪が映えて草間に良く似合っていた。


「草間君、似合うね」

「ん?そっか?オレこーゆうの着るの初めてだから緊張するわ」

「他の人達も格好良かったり可愛かったりで皆似合うね」

「お前の衣装も似合うだろうから心配すんなって」

「……あの、ボクまだ何着るかわからないんだけど」

「「「当日までのお楽しみだよ」」」


小虎達の会話を近くで聞いていた衣装製作担当の生徒達が横から言葉を投げかける。
その様子に草間は、その通りだという様にウンウンと頷き、小虎は相変わらず首を傾げるばかりだった。


2016/7/18.



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