『小虎の恋模様』
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各階の各クラスも賑わいながら文化祭の準備を着々とこなしていき、校舎と門までの間の通りにも文化祭用に装飾が施され、生徒達のやる気が日増しに高まっていく。
重たい暗幕を運ぶ生徒達、色とりどりの紙や布が壁に貼られる教室、放課後には特別教室から様々な楽器の音がメロディを奏で、それに重なる様に響く大げさな位なセリフ回し。
生徒会室にもほんのりと届くそれらの音をBGMに、生徒会役員達は文化祭用のパンフレットや案内図、そして招待券の製作等を行っていた。
文字が多い項目にはパソコンを使用するが、案内図に関しては学生と文化祭らしく、という理由で手書きで書かれ、案内図の表には、校舎内の簡単な見取り図に各教室の番号と催し物を記入し、パンフレットには注意事項や問題発生時の時の対応等が書かれ、それと案内図を組み合わせて一つの小冊子にして門の所で配布する予定だ。
招待券に関しては、過去にも使用された物を大量印刷して、各生徒に数枚を渡し、招待したい人にそれを配ったり、それとは別に蓮見学園に縁のある人物達には署名付きの招待券を郵送して招待するという形を取っている。
「招待券のデザインさー、今年はこれで良いですかねー?」
「去年のと被らなければ大丈夫ですよ。三階案内図の書き込み出来ましたよ」
「一階の案内図の書き込みも出来ました」
「二階案内図と業者への注文票も大丈夫です。賀集の方は出来た?」
「え、ええっと……んと……た、たぶん」
紀野に問われてパソコン画面を見つめながら小虎が答えれば、紀野が席を立ち小虎の元へ足を運ぶ。
文面を読み直し、去年と少し変更された内容に間違いがないかの確認等を何度か繰り返し、大丈夫だろうと一息吐いた時に横から紀野が覗き込む。
「っ、!!」
「……うん、大丈夫だね。お疲れ様」
覗き込まれた事によって近い気配に肩が揺れたが、どうやら紀野には気付かれなかった様で、小虎はホッ、と胸を撫で下ろした。
ホッ、としたのも束の間、画面を見ていた紀野が確認し終わって、小虎を労う様に頭を優しく撫で、微笑む。
頭を撫でられながらブワワッ、と顔を真っ赤にさせる小虎に、更に笑みを深める紀野。
そしてそれをなんとも言えない目で見る遠野、微笑ましく見守る綾小路、二人の様子に熱が移って小さく慌てる山内。
因みに三人の反応に紀野は気付いてはいるが、小虎は気付かない。それを良い事に紀野はやっているのだ。
「二人の世界から戻ってこーい」
「……ハッ!!」
「……チッ」
いい加減にしようぜという気持ちを込めて遠野が呼びかければ、気付いた小虎が真っ赤なまま慌てて遠野達三人を見れば、横で小さく舌打ちが聞こえて不思議に思い、紀野の方へ視線を戻すが、ニコリと微笑まれるだけだった。
「センパーイ、副会長が怖ぇですー」
「ふふ、可愛らしいじゃないですか」
「ええー……」
ボソボソと話す遠野と綾小路の会話は、近くにいる山内には届いてるが、小虎と紀野の耳にまでは届かなかった。
2016/6/27.
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