『小虎の恋模様』
15
「会長君、今日はあまりテンパらないな」
「ぅ……き、緊張は、してるよ……?」
校舎の案内が終わり、寮の説明をする為に小虎達は生徒寮に来ていて、今は寮一階にある学食や購買、共同スペース等を見て回っている。
その際に近くに寄って来た巽がこっそりと耳打ちしてきた為、気まずそうに小虎は答えた。
「緊張して、何時も通り……上手く出来てないけど……、ボク、見学会に参加した事あるから、頑張らないとって思って頑張ってます」
当時の事を思い出しながら巽に言えば、巽はキョトンとした後、顔を背けて肩を震わせた。
どうしたのかと前のめりに覗き込めば、笑いを堪えている事に気付き、小虎は疑問符を浮かび上がらせた。
「な、なんで笑ってるの……?」
「いや、なんとなく。頑張ってるのは伝わってくるからわかるけど、別に見学案内は頑張る程の事でもなくない?」
「……巽君は、持ち上がり組だから言えるんだろうけど……外から来た者からしたら凄く助かるんだよ?」
「助かるって、何に?」
「……気持ち的に……」
あのおっきい門を初めて見た時は衝撃的だった……、そう呟けば、ブハッ!!、と耐え切れず巽は大笑いし出した。
「な、ななななんでそんなに笑うの?!ボク、へへ変な事言った?!」
「あっははは!!悪い悪い!!そうか、慣れの違いもあるよな。でも気持ち的に助かってるのはきっと会長君だけだよ。多分」
「えええ……それどういう意味?」
「……小心者って意味?」
「ひ、酷い!!」
事実でも酷いよ!!、そう若干涙目になりながら言えば、更に笑い出す巽に頬をぷっくりと膨らませる小虎。
そんな二人の様子を遠巻きに不思議そうに見ている見学会参加者の中学生と引率の教師であった。
一通り笑い終わって落ち着きを見せる巽に、小虎は不満気にプクゥ、と頬を膨らませて見せる。
その様子にまた巽が小さく笑い、悪かったって、と謝罪の言葉を述べた。
「会長君は見学会に参加した時の事、どれ位覚えてる?」
そう徐に聞いてきた巽に小虎は首を傾げた。
巽は以前、紀野から聞いた当時の事を小虎はどの位覚えているのか、それを確かめる為に質問したのだ。
「えっと……、大きい門にビックリして、案内の説明の時に校舎の大きさにもビックリして……兎に角、ビックリしすぎて殆んど覚えてない……」
記憶を頼りに小虎は当時の事を振り返るが、正直な話、驚きのあまり半分放心しかけた状態で校内案内をされていたのが事実で、そのままの状態でうっかり迷子になったのが真実だったりする。
2016/4/21.
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