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『小虎の恋模様』
12 Side 草間


「ちょっと……!!待ちなよ、草間!!」


待てと言われたが立ち止まって話を聞くのではなく、そのまま駆け上がりながら軽く江ノ島の方を向く。


「そんなに慌ててどうしたのさ!!賀集 小虎なら大丈夫だって……」

「もしそうでもこの目で確認するまでは安心出来ないね!!」

「意味、わかんな……ッ!!」


階段の階数は二階分だけだとはいえ、ダッシュで駆け上がり、更に廊下も走って教室へと向かうオレも、オレの後に付いてくる江ノ島も息が上がってきている。
それでも小虎がいる教室まで全速力で走り、D組に辿り着いたのと同時に思いきり教室のドアを勢い良く開ければ、小虎の肩が大きく揺れたのが見えた。


「ひわぁぁぁああ?!……っえ?!く、草間君……?」

「ハッ、ハァ、ハァ……こ、ことら……」


おかえり、と言う小虎の元に、息絶え絶えになりながらも早足で向かい、小虎の顔を覗き込む。


「お前、一人でここにいた時、なんともなかったか?」

「え、あ、うん……大丈夫、だよ?」


整った息を一度大きく吐き出してから小虎に問えば、小虎は一瞬眉を潜めたが、そのままなんでもない様子で答えてくれた。
だけど、一瞬見た表情が引っかかって更に顔を覗き込めば、ビクリと肩を揺らして少し後ずさる小虎。
ジッ、と睨む様に見つめ続ければ、小虎はふと視線を逸らした。


「…………お前ね……」

「ナ、ナンデモナイヨ。ダイジョブダヨ」

「いや、あからさますぎるから!!」


片言で更に大丈夫だと言う小虎にオレは詰め寄るが、小虎は頑なに口を開こうとしない。
開いても『大丈夫』や『何もないよ』しか言わない。
明らかにおかしいのはわかるのに、その原因が一向に明らかにならない……こいつこんなに頑固だったか?


「君達は何してんの、さっきっから……」

「聞いてくれ江ノ島。小虎が隠し事をしているのに話そうとしないんだ」

「隠し事だからね。そりゃ言わないでしょ。隠し事だもの」

「二回も言うな」

「え、江ノ島君もおかえりなさい……」


話を逸らそうとしているのか、小虎は江ノ島の方に話を振った。
そんな小虎に対してどことなく気まずそうに、……ただいま、と応える江ノ島に、つい珍しいものを見たかの様な視線を送ってしまった。
あ、顔逸らしながら言う所は江ノ島らしいわ。
兎に角、何があったのかを問い詰めようとは思ったけれど、埒が明かない為とりあえず今は諦める事にした。


「……はぁ。とりあえず今は帰ろうぜ?そんで、なんかあった事は後日話したくなったらちゃんと話す事。良いな?」

「う、うん」


オレが帰りの支度をし始めれば、小虎も机に広げられていた教科書やノート類を鞄にしまい始める。
そんな様子を見て江ノ島も自分の鞄を取りに教室へ向かう為に動き出したのを視界の片隅に捕らえた。


「江ノ島ももう帰んだろ?一緒に帰るか」

「は?……はぁ?!なんでそうなるんだよ!!」

「いやだってもう寮戻るだけじゃん。ここまで来て別々に行くのもなんだし」

「なんでわざわざ君達なんかと……ッ」

「え、江ノ島君!!め、迷惑じゃなかったら、一緒に帰ろうよ?」

「君と一緒に帰る事が意味わかんない!!」

「ご、ごごごめんなさいぃぃッ!!」


小虎の勇気を振り絞ってオレの提案―――って程のものでもないが―――に同意して誘えば、江ノ島は怒鳴りながら小虎に悪態をつく。
その勢いに小虎はほぼ条件反射で謝罪の言葉を口にしていた。
が、オレは見た。小虎にも一緒に帰る事を誘われた時、悪態をつきながらも頬を少し染めてちょっと満更でもなさそうな表情をしていた事を。


(なんだかんだ言うけど、江ノ島もだんだん小虎に絆されてきてんなー)


江ノ島は案外絆されやすい性格なのか、それとも小虎が凄いのかはわからないけれど、紀野の親衛隊隊長ととの交友……交友?は良好な方が小虎にとっても良い事だし、そのまま絆されていってしまえ、江ノ島よ。


2016/2/28.



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あきゅろす。
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