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『小虎の恋模様』
11 Side 草間


補習も今日のこの時間で終わりを迎える。
やっと解放されるんだー、という気持ちで最後の補習を受ければ、先生が補習最後だからとほんの少しだけ早く終了してくれた。
ラッキー!!、と思うのも束の間。


「あ、そうじゃ。ちょっと荷物運び手伝ってはくれんかね?草間よ」

「……うそーん……」


ゾロゾロと教室から出て行く数人の生徒に並んでオレも帰ろうとした所に先生からのご指名。
このお年を召したおじいちゃん先生には前にも放課後に呼び止められて片付けを手伝うように言われた先生で、荷物運ぶだけっすよ?、と言えば、ニコォ、と人の優しそうな笑みを向けられた。
……早く終わらせたのはまたオレに片付け手伝わせる為かよチクショー!!てかなんで毎回オレなの?!
じゃあ頼むね、と荷物をポンポン叩きながら言うおじいちゃん先生はスタスタと教室を出て行ってしまった。
仕方なくオレは指定の荷物を持っておじいちゃん先生の後を追った。






荷物を運べば今度はやはり片付けの手伝いをさせられた。
おじいちゃん先生は身近な机付近を掃除し、オレはその他の広い面を片付けた。
またホルマリン漬けをじっくり見る事になるとは……。
溜め息交じりに手を動かしていれば、若いのに溜め息ばかりじゃ幸せが逃げるぞぉ、なんて笑われたが、アンタのせいですけどね!!、と心の中で悪態ついた。
いやだって直接言う訳にもいかないじゃん?おじいちゃんとはいえ一応、先生な訳だし。
そんな事を考えていればあっという間に片付けが終わり、やっと解放されたー、と安堵の息を吐いたが、あとこれも宜しくね、なんて微笑みながら段ボールを指すおじいちゃん先生にちょっと怒りが湧いたのは内緒だ。
段ボールを持っておじいちゃん先生が向かう場所に付いて行けば、どうやら職員室のようだ。


「……ん?」


おじいちゃん先生が先に職員室のドアを潜り、続けて入ろうとした時、ふと人影が視界の隅に映り、そっちに視線を向ければ江ノ島の後ろ姿だった。
あそこは管理事務所の受付もある出入り口の場所だ。


「……江ノ島?」

「?」


オレの呼びかけに振り向いた江ノ島が、少し間をおいてから何かに気付いた様に口を開いた。


「実里に呼ばれて来てたんだよ。賀集 小虎なら教室にいるよ」


そう江ノ島が言った。
一瞬、実里って誰だ?、と思ったが、江ノ島が事情を伝えた時にチラリと誰かが顔を覗かせてオレ達の様子を窺ったのを見て、紀野の親衛隊副隊長の事かと納得した。
呼び出しを受けてここにいるというのはわかったけれど、小虎が今一人でいるという事に若干の不安が募る。
続いて江ノ島が、教室からは出るなとは言っておいたけど、と念押しした事を話すが、不安は拭いきれない。
いやでも補習期間中の今は生徒も少ないし、補習が終わった生徒達はさっさと寮に帰ったりそのまま実家に帰省したりしただろう。
杞憂で終われば良いのだが、拭いきれない不安感は嫌な予感へと変わり、いやでも考えすぎか……?、等と思考が堂々巡り。
辿り着かない結論にオレは慌てておじいちゃん先生に声をかけた。


「……いや、大丈夫だとは思うけど……いや、いやいやいや。ちょ、先生!!オレ急用思い出したからコレここで良いっすか?!」

「どうかしたんか?」

「ちょっと!!」


説明する時間がもったいなくてオレは曖昧に返事を返してそのまま急いで教室へ向かった。
兎に角、大丈夫か大丈夫じゃないかは自分の目で見て確かめないと気が済まない。
そんな一心で階段を駆け上がっていれば、何時の間にか追い付いていた江ノ島に荒っぽく名前を呼ばれた。


2016/2/12.



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