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『小虎の恋模様』
10 Side 江ノ島


呼び出しを受けてD組の教室を出て向かった先は学園管理事務所の受付。
何故そこに来たのかというと、呼び出しの人物が鈴原 実里だったからだ。
補習のない生徒が学園にいる誰かに用がある時は管理事務所で呼び出して貰う形式になっているのは、事前の終業式で賀集 小虎が説明していた。
実里は補習を受ける必要のない生徒な為、管理事務所に来たという訳だ。


「何か用か?実里」

「用があるから呼んだんでしょう?」

「や、まぁ、そうだけど……」


実里の言う通りなのだが、わざわざ学園に足を運んで、更には携帯でやり取りして済まさない辺り、不思議に思ってもおかしくはない。
余程大切な内容か、もしくは急ぎの用事なのか……、そう思ってオレは実里に呼び出しの理由を改めて質問した。


「改めて確認したくてね。紀野様って何日頃に御実家に帰省されるんだっけ?」

「……それ、メールとかでも良かったんじゃないのか?」

「直接聞いておきたかったんだ。ごめんね?」

「まぁ、別に良いけどさ。紀野様は確か―――……」


携帯を改めてポケットから取り出し、先日メモしたページを開き、それを実里に伝える。
実里はそれを聞きながら持って来ていた手帳に筆を走らせた。
ついでにと親衛隊の休み中の活動についてとかも再確認の意味を込めて改めて話し合い、あとは大丈夫だろうと二人で頷いた。


「もうこれで大丈夫だろう?」

「うん。わざわざごめんね、手間取らせて……」

「実里は心配性な所があるからな。再確認する事は悪い事じゃないから気にするな」


そう言ってやれば実里は、ありがとう、と微笑みながらお礼を述べる。
そんなやり取りをしていれば、補習終了のチャイムが鳴り響く。
鞄を教室に置いてきているから一度上へ戻らないとならない為、それを伝える為に実里に向き直る。


「実里、オレ鞄取りに行かなきゃならないから戻るけど、お前先に帰るか?」

「本当は和巳を待っていたいけど、これから実家に電話入れなきゃいけなくって……」

「そっか。じゃあ、気を付けて―――……」

「……江ノ島?」


気を付けて帰る様に実里に言おうとした所で誰かに呼びかけられた。
振り返ればそこには草間が職員室に入ろうとしている姿が。
驚いた様な表情の草間に首を傾げたが、直ぐにその理由に思い当たった。


「実里に呼ばれて来てたんだよ。賀集 小虎なら教室にいるよ」

「いや、お前……え?小虎、今一人なの?」

「教室からは出るな、とは言っておいたけど」

「……いや、大丈夫だとは思うけど……いや、いやいやいや。ちょ、先生!!オレ急用思い出したからコレここで良いっすか?!」


深刻な表情で何かブツブツ言っていたけど、突然何かを否定しながら頭を振り、職員室内にいる、恐らく先程まで受けていた授業担当の先生に向かって叫びながら手に持っていた箱を床に置いた。
先生も、どうかしたんか?、と不思議そうな表情で草間に問いかけるが、草間は特に理由を話さず、ちょっと!!、とだけ言って慌てて走り去って行ってしまった。
そんな草間の様子をポカン、と見ていたオレ達だったが、オレもD組に戻る理由があるから足早に草間の後を追いかけた。
"賀集 小虎を一人にさせない"理由をオレは知らない為、草間の反応はいささか大げさなのでは?、と思う。
けどそれは"理由を知らない"オレだからそう思うのであって、"理由を知っている"草間にとっては今の状況は大事なのだろう。
そう思うとオレも不安になって、教室を出た事を申し訳なく思い、歩みが自然と小走りになった。


2016/1/22.



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