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『小虎の恋模様』
9


「オレがした事はとても許されるものじゃないから、いろいろと覚悟を決めてきたんだけど、会長サンは優しいね」

「い、いろいろ……?」

「"謝って済む問題じゃない!!"って言いながら殴られたり、とかね」

「な、殴……?!」

「でもよくよく考えたら会長サンはそんな性格してなかったね。安心したよー」


そう言って姿勢を崩して座り込む吉野に、ほんの少し笑みが零れる。
歓迎会の時は酷く怖い思いをしたというのに、相手は草間や紀野、巽達に忠告される程の人物だというのに、今小虎の目の前にいるのはそんな事を一切思わせない、ただの上級生にしか見えなかった。
その安心感が吉野に伝わったのか、吉野もまた砕けた笑みを小虎に向けて、許してもらえて良かったよ、と再び話し出した。


「ねぇ、会長サン。オレ、お願いがあるんだけどさ」

「?お願い、ですか?」

「うん。良かったらさ、オレと友達になってくれない?」

「……へ?」


突然の申し出に小虎は目をぱちくりと瞬かせた。
そんな小虎の反応を見越していたのか吉野は、急でごめんね、と苦笑交じりに続きを口にする。


「オレ今回の事本当に反省してるし、後悔もしてるんだ。だからその罪滅ぼし……って言ったら大げさだけど、会長サンの為に何か出来たら良いなって考えたんだ」


下げられた視線に組まれた指がぎこちなく動く様子に、吉野の言葉に嘘はないんだろうな、と小虎は内心で思う。
現に吉野の声音も若干の震えと弱々しさがあり、小虎の返事を不安になりながらも待っているのが見受けられる。
小虎は普段、上級生と下級生、更には同級生との関わりが一部を除いてほぼ無いに等しい。
上級生と言えば生徒会役員に所属している綾小路や役員引退している相田に他の元役員達、下級生に関しては山内以外との関わりはない。
同級生も草間やクラスメート、紀野に遠野、そして風紀委員の巽や他の一部の委員のみ。
あまり人との関わりがない分、上級生と友人関係になるというのは、小虎にとっては未知な世界だといっても過言じゃない。
返答に困った小虎は、でも吉野の気持ちが本気ならば、無下に断るのも悪い―――相手が上級生という立場もあるし―――と思い、小虎はコクリと小さく頷いた。


「……っ、本当?!良いのか?」

「えっ……と、あの、でも時間頂いて少しずつ慣れてく……でも良い、ですか?」

「会長サンって人見知りするタイプ?でも良いよ、会長サンがその方が良いって言うなら。まずは普通に仲の良い先輩後輩関係を築いて行こうね」

「……は、はい……」


ニコリと微笑む吉野に、小虎も困った様に笑い返す。
流れの勢いで吉野との関係を深める事となったけれど、早急に決めすぎただろうか、と今更ながら小虎は不安に感じた。


(……草間君達に相談もなしに決めちゃったけど……知られたら怒られるだろうなぁ……)


忠告や心配をしてくれた人達に知られたらきっと怒られるだろう事を想像して、小虎は小さく溜め息を吐いた。
小虎が溜め息を零した時、規則的な機械音が鈍く鳴り響いた。
どうやら吉野の携帯のようで吉野は、ちょっとごめんね、と小虎に断りを入れてから携帯を操作する。
どうやらメールが届いたらしく、視線が文字列を辿る様に動いてから小虎へと戻された。


「会長サン、オレ急用出来ちゃったから今日は帰るね」

「そ、……ですか。お気を付けて……」

「うん。会長サンも帰る時気を付けて」


携帯をポケットにしまい込みながら吉野は立ち上がり、小虎の頭を一撫でしながら告げ、そのまま教室を出て行った。
あまりにも急に始まり急に終わったが、"急用が出来た"と言っていたから慌てて帰っても何もおかしい事はない、そう小虎は納得して、力の籠っていた肩を緩めて詰めていた息を思いきり吐き出してダラリと背もたれに寄りかかった。


「……緊張した……」


慣れない状況に、いまだに心臓がバクバク暴れている事に情けないと思いつつ、ふと時計を見る。


「補習、もう終わるなぁ……」


そうボソリと呟いた途端にタイミング良くチャイムが鳴り響いた。


2015/12/30.



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あきゅろす。
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