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『小虎の恋模様』
8


急に開かれたドアの音にビックリしてドキドキと心臓が激しく動き、ゆっくり視線をドアに向ければ、開かれたドアに寄りかかった一人の生徒がそこに立っていた。
その生徒の顔を見て小虎はビクリと肩を揺らす。


「こんにちは、会長サン」

「ッ……、よ……しの、先輩……」


ドアに寄りかかっていたのは新入生歓迎会の時以来の、接触する事を注意されてきた人物、吉野がそこにいた。
小虎は突然の吉野の登場に頭が混乱して、少し息を乱す。
そんな小虎を知ってか知らぬか、吉野は笑みを持ったまま、ゆったりとした足取りで小虎の方へと歩み始める。
距離のある吉野の耳にまで届きそうな勢いで大きく脈打つ心臓がうるさくて仕方がない。
小虎の斜め前で立ち止まった吉野は小虎に視線を合われる為に、先程まで江ノ島が座っていた椅子へと腰を掛けた。
歓迎会以来、学園内で接触する事もなく今まで過ごし、小虎も心配ないだろうと思っていた頃、何故今になって小虎の前に現れたのか。
小虎は視線だけを吉野に向け様子を窺えば、丁度吉野が小虎へと視線を投げかけた時だったらしく、双方の視線がバチリと合った。
ビクリと肩を揺らす小虎とは違い、吉野は余裕の笑みと共に姿勢を小虎へと向ける。


「そんなにビクビクしないでよ。何もしないからさ」

「あ、あああの……えと……」

「っていうか今日は会長サンに謝りに来たんだよね」

「……え?」


吉野の意外な発言に小虎はキョトリと目を丸くする。
謝られる事と言えば歓迎会での出来事以外に思い付く事もない為、どういう風の吹き回しなのかと小虎は警戒を解く事もなく吉野を窺う。


「新歓の時さ、会長サンに酷い事しちゃったでしょ?直ぐに謝りたかったけど謹慎の上に続けざまに家の事情で一時帰宅しててね。あ、今日はその時の授業日数の都合で補習受けに来ててさ」

「は、はぁ……」


苦笑交じりに説明する吉野に、小虎は眉を下げながら答える。
吉野が言っている事が本心なのか、そうでないのか、その判断を見極めようと小虎は吉野の顔色を窺うが、生憎と小虎はそういった事に長けている訳ではない為、自分の判断じゃ見分けが付けられなかった。


「だからさ、遅くなっちゃったけど、あの時は怖い思いさせて本当にごめんね?言い訳になっちゃうけど、新歓以前から家でゴタゴタがあってね。それでちょっと気持ちが沈んでたから……我ながら恥ずかしいよ」


申し訳なさそうに首(こうべ)を垂れる吉野に、小虎はどうして良いかわからず、とりあえず慌てて吉野に顔を上げる様に言った。


「あ、あの、もう過ぎた事ですし……、せ、先輩が謝ってくださったので、お気になさらず……」

「……でも……」

「ほ、ほほ本当に大丈夫なんで!!」


申し訳なさそうに更に続ける吉野をなんとか説得し、吉野は顔を上げて小虎を眉を下げた表情で見遣る。
顔が上がった事にホッ、と一安心し、小虎は胸を撫で下ろした。


2015/12/30.



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あきゅろす。
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