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『小虎の恋模様』
7


それからというものの、なんだかんだと言っておきながらも小虎の課題を手伝う江ノ島に、小虎は応える様に手を動かした。
補習時間中な為、少し離れたクラスから担当教科の教師の声がほんの少し届く程の静けさの中、ブーブー、という特徴のある連続的な機械音がD組に響き、江ノ島が制服のポケットから音の発生源である携帯を取り出した。
画面を見てそのまま操作し始めた事により、電話ではなくメールが届いたのだと小虎は悟る。


「……ねぇ、キミは草間が戻るまでここにいるんだよね?」

「う、うん。一緒に帰る予定だから」

「そ。じゃあ、オレちょっと呼ばれたから少しの間席外すけど、良い?」

「……呼ばれた?」

「そう。用事終われば戻って来るからキミはここを動かないでね」


ガタンと音をたてて席を立つ江ノ島に小虎はキョトリと目を丸くして見遣る。
その視線に気付いた江ノ島が怪訝な顔で、何?、と尋ねた。


「あ、いや……その……」

「なんだよ。ハッキリ言いなよ」

「えと、……も、戻って来てくれる……の?」

「は?」


コテンと首を傾げながらおずおずと尋ねる小虎に対し、どういう意味だと顔を顰める江ノ島。
小虎は慌てた様に更に続けた。


「だ、だって、江ノ島君、用事?終わったらそのまま寮に帰っても……」

「……あぁ、そういう事。一応、草間に頼まれたし、嫌々だったけど引き受けたからには放棄はしないよ。あまりオレを見くびらないでほしいんだけど」

「あ、ご、ごめんなさい……」


そう言って去り際に、教室から出ないでよ!!、と追加で念を押してから江ノ島は教室を立ち去った。
その姿を見送ってから小虎は頬を少し緩めた。


(江ノ島君、優しい人だなぁ。最初、怖い人かと思ってた)


初めて江ノ島と対面したのが、GW最終日の夜で、その時は一方的に怒鳴られて終わったから、小虎は江ノ島の事を怖いと認識していた。
だけど、あの雨の日にほんの少し言葉を交わして、大きな声を出すけれど、実はそんなに怖い人じゃないんだ、という認識に改めていた。
更に今日の事で良い人、優しい人というプラスな印象に変わり、厳しい言い方をされるし、怒鳴られる事は変わらないけれど、江ノ島の事を苦手とは思わなくなっていた。
補習時間もあと十五分程度で終わる為、小虎は残りの時間も課題を進めていようと、改めて課題に向かい合った。
静かな教室内には小虎が滑らすシャープペンの芯の音がカリカリと響き渡り、時折教科書を捲り擦れる紙の音、風がフワリと吹いてカーテンが揺れ影を差す、そんな教室のドアが急に音をたてて開かれた事に、集中していた小虎はビクリと肩を揺らして、ドアの方へと視線を向けた。


2015/12/30.



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