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『小虎の恋模様』
6


「あの日、キミ達がいなくなった後、紀野様とご帰宅が重なって一緒に帰ったんだよ。その時に紀野様、キミの事気にかけてたから……」

「…………」


紀野も小虎の身に起きた事情を知る内の一人だからか、あの日役員全員が別々に帰った事と、一人で帰ったと思われた小虎を心配してくれていたというのが江ノ島の発言でわかり、小虎は頬を染めて俯いた。
嬉しさのあまり心臓が高鳴って熱が下がらず、どうしようと考える中、そんな小虎を見て江ノ島はムスッ、とした表情で話を続けた。


「ねぇ、わかんないんだけど、なんで紀野様も草間もキミを一人にしないようにしてんの?キミ、誰かといないといけない程ダメダメな人なの?」

「……え、ええと……そんな事は……」


ないと思う、そう肩を落としながら呟く小虎。
詳しい事情を知らない江ノ島にはそんな風に感じられていたのか、と小虎は少し凹んだ。
誤解を解くべく話そうと思うが、どこまで話して良いのかわからず、結局は曖昧な答えになってしまう。


「ちょっと事情があって……」

「……紀野様だけじゃなくて生徒会役員の皆様の意向でもあるって聞いたけど、草間はなんで知ってる訳?」

「えと……同じクラスで仲が良いから?」

「……はぁ。なんでそういう事になったのか、一般生徒であるオレには話せない事だろうからこれ以上は聞かないけど、許すまじ賀集 小虎……」

「ひぇッ、ご、ごごごめんなさいッ!!」


溜め息を吐いたかと思えば次の瞬間には黒いオーラを纏いながら少し低めの声音で江ノ島は呟き、小虎は咄嗟に謝罪した。
それからは江ノ島はそっぽ向いたまま席を立つ事もなく、小虎も声をかけるにもどうしたら良いものか考えあぐねて、結果諦めて小虎は鞄の中から課題を取り出して静かに手を付け始めた。
今日補習を受けた教科の課題を忘れない内に少しでも進めておこうと手を付けたものの、やはり進みは遅く、小虎はウンウン唸りながら手を動かす。
教科書を見直したり、今日配られたプリントを参考にしたり……、それらを繰り返してはいるが、少し手が止まって悩み込む。
そんな様子を江ノ島はチラリと横目に窺い、ウンウン唸る小虎の様子に盛大に溜め息を吐く。


「……ここ、それにここも間違ってるよ」

「えっ、あ、ど、どこ……」

「これはこの公式を使って、こっちはこれの応用。でも引っ掻け問題になってて間違えやすいから気を付ける事」

「あ、ありがとう……」


冷静な声音で小虎の課題に手を貸す江ノ島に小虎はポカンと呆け面で礼を告げる。
その様子にムッ、と唇を尖らせ、江ノ島は少し怒気を含ませた声音で言う。


「キミ、D組で補習受ける位だからそんなに頭良くないんでしょ?!進まないならウンウン唸ってないで聞けば良いだろ!!それでよく役員に選ばれたよね!!」

「うぅ……い、言い返せない程その通りです……。や、役員に選ばれたのはボクだってビックリだったよ。ボクよりも頭良い人いっぱいいるし、ボク、緊張して上手く話せなくなるし……もっと向いてる人沢山いるのに、って……」

「……」


シュン……、と本気で俯く小虎を江ノ島は静に見つめた。
確かにこの学園には小虎以上に役員に向いた生徒は沢山いる。
前生徒会長を務めた相田から引き継いだ小虎の会長ぶりはお世辞にも良いとは言えない。
中には不満を持って前任と比べての非難の声を今でもちらほらと聞く程。
勿論、小虎が全く機能してなく、頑張ってもいない、という訳でもない事は他の役員達の様子からも窺えるから、小声で文句は言うがそれを面と向かって言う者は今の所いない。
生徒会室での作業な為、直接確認して見る事は出来ないが、学園が荒れる様な噂話も流れていないという事実が、小虎の頑張り具合にも繋がっていると考えても良いだろう。
だからこそ、正式に生徒会長を引き継いで約四ヶ月程の今でもうだうだ悩んでいる小虎に対して江ノ島は怒りを叩き付けてしまう。


「その言い方はキミを役員に選んだ人にも先生方にも失礼だと思うんだけど。そもそも紀野様を差し置いて会長になったんだから紀野様にも失礼でしょ」

「……ほ、本当は紀野君が会長に選ばれてたのを紀野君がボクの為にって交換してくれたの。本当はボク、会計だったし……」

「……は?そんな事があったの?なら尚更、紀野様に失礼でしょ。どういう理由でそういう事をなさったかは知らないけど、キミは紀野様の気持ちまで踏みにじるの?」

「そ、そんなつもりは……」

「だったら選ばれて会長やるって決めたなら胸を張りなよ!!向き不向きがあるのは当たり前なんだし、それを考慮してでも会計に選ばれて、紀野様も選択されたのだから、頭悪いなりに頑張って、上手く話せなくても内容伝えれば良いんだよ!!」


先程、江ノ島は"それで良く役員に選ばれた"と言ったが、その後の台詞で別に全否定している台詞ではない事に小虎は気が付いた。
それだけではなく、小虎に喝を入れて励ましてもくれた事に小虎は目頭が熱くなった。


「……ありがとう、江ノ島君。ボク、頑張るね」

「だからと言ってキミを認めた訳じゃないから勘違いすんなよ?!」

「あ、はい……」


フン!!、と再びそっぽ向いてしまった江ノ島に対して小虎は少し笑みを零した。


2015/12/30.



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