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『小虎の恋模様』
5


「賀集 小虎、いる?」

「……江ノ島?」

「あ、はい、いますっ」


入口に佇んでいたのは先程小虎と一緒に補習を受けていた江ノ島本人だった。
小虎は江ノ島の姿を確認済みだったから普通に返事をしたが、草間は驚いた様子で目を見開く。


「お前、なんで学校にいんだよ?」

「あ、江ノ島君もさっきの補習受けてたから……」

「え?江ノ島、補習受けてたの?意外だなー。A組なのに」

「う、うるさいな!!言っとくけどお前らみたいに点足りなくて受けてたんじゃないからな!!」


小虎と草間の会話に怒りを露わにした状態で反論する江ノ島。
その際にツカツカと二人の元へと早足で歩み寄る。


「オレは家の用事で度々休み取っててそれで受けてただけで期末考査の結果は上々だったよ!!」

「うーわー、上々とか何それ羨ましー。脳みそ分けて」

「無理に決まってんだろ!!勉強でもしてろ!!」


最もな事を言われて小虎も草間も肩を落とす。
そんな二人を気にせず江ノ島は、ふんっ!!、とそっぽを向く。
そんなやり取りをしていたが、ふと気になって草間は改めて江ノ島に質問した。


「んで、江ノ島は何しに来た訳?小虎に用なんだろ?」

「……あ、あぁ。忘れる所だった」


ハッ、と思い出した江ノ島がその手に持っていた物を小虎の前へと差し出す。
見るとそれは、あの雨の日に江ノ島に貸した小虎の折り畳み傘だった。


「えっ、今更過ぎじゃね?」

「うっさいな!!タイミングがなかったんだよ!!……とりあえず、これありがとう。あと遅くなって悪かったな」

「あ、いえ。お役に立てて良かったです」


ぶっきらぼうなお礼と謝罪を受けて小虎は若干苦笑いで差し出されていた折り畳み傘を受け取る。
用は済んだと江ノ島が踵を返そうとすれば、思い付いた様に草間が、待った!!、と江ノ島を引き止めた。


「……なんだよ」

「お前さ、この後寮に帰んの?」

「は?……そうだけど、それが何……」

「よっし!!つまりは時間があって暇って事だな?んじゃお前もちっとここに残っててくれよ」

「はぁあ?!」


草間の提案に大きな声で反応する江ノ島。
小虎もその案に驚いてオロオロと草間を見遣る。


「く、草間君、それは江ノ島君に悪いよ……」

「良いじゃん、補習受けてる間だけだし。良いだろ?」

「いや、良くないし。大体、なんでオレが……」

「何もないとは思うけど、念の為誰かといさせた方がオレも安心するし。例えそれが江ノ島でも」

「キミは何時も一言多いんだよ!!」


そう言って草間はガタリと席を立ち、片手に補習で必要な教科書を持ってそそくさくと後ろのドアへ歩いて行った。
ちょっと?!、と尚も反発する江ノ島に対し、草間はもう決めた事だという様に手を振って足早に出て行った。


「………ちょっと」

「は、はいっ」

「アイツなんなの?!勝手過ぎんだろ!!」

「く、草間君、次補習だから……その……」


移動をしなくてはならない、という事をほのかに漂わせて小虎が言えば、ジロリと小虎を睨み付ける江ノ島。
その視線にビクリと肩を揺らし小虎は縮こまる。
そんな小虎を見て江ノ島はイラッ、としたが、やがて諦めた様に溜め息を吐いて小虎の前の席の椅子を引いてドカリと座った。


「あ、あの……江ノ島君……」

「……勘違いすんなよ。草間に言われたから残るんじゃなくて、紀野様もそんな事を仰ってたからだからな」

「……紀野君?」


突然、出された紀野の名にドキリと胸を高鳴らせる小虎に対し、江ノ島は不服そうに唇を尖らせて傘を借りたあの日の事を話し出した。


2015/12/17.



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あきゅろす。
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