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『小虎の恋模様』
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「ただ今より終業式を行います」


そう告げるのは今回の司会進行役に選ばれた紀野の声だった。
壇上でもなく、生徒達の並ぶ列にも外れた立ち位置にいるにも関わらず、近くに並ぶ生徒達は紀野へと視線を投げかけていた。
紀野のいる場所から少し後ろの壁近くには、残りの生徒会役員が並んでいる。


「初めに表彰式を行います。名前を呼ばれた生徒は壇上に上がってください」


そう紀野が言うのと同時に理事長が壇上へと上がり、それに続く様に綾小路が後ろに着く。
理事長たちの準備が済んだ事を確認をしてから一拍置いて紀野は口を開き、表彰される生徒達の名前を次々に読み上げる。








―――表彰式が終わり、その流れで理事長挨拶が行われ、次は生徒会からの夏休み期間の話になった。
紀野が進行し、小虎は緊張したままの足取りで壇上へと上がる。
その際に生徒達が一瞬小さくザワついたのを、小虎以外の人間が気付く。
小虎がマイクの元まで進み、持っていた書面を読み上げようとスゥ、と息を吸う。


「な、夏休み期間中、の、お知らせですっ。夏休み中、帰省されない生徒さん達は、通常通り、寮での活動となります。食堂に関しては、時間が少し変更されたりするので、食堂前の掲示板に、お知らせのプリントを掲示しておくので、改めて確認の方、お願いしますっ。校舎の方には、生徒会役員や風紀委員、その他役員、及び部活動以外の生徒さんは、原則立ち入り禁止です。せ、先生方に御用がある場合は、管理事務所にて御用のある先生をお呼びくださいっ」


ここまで言って小虎は一度深呼吸をする。
目の前に並ぶ生徒達も、新入生歓迎会での説明していた時と少し違う小虎に、おぉ……!!、と感動に近い何かの歓声を上げていた。
それもその筈。小虎は今日のこの説明の為に、生徒会役員や風紀委員会に協力して貰って読む練習を重ねてきたのだ。
緊張や所々つっかえてしまうのは次の課題として、とりあえず吃る事と変な所で区切ってしまう事は回避出来た。
その事に小虎自身、頑張って良かった、と涙を堪えながらもう一つ重要なお知らせがあるからそれを読み上げようとその文面に視線を落とす。
落としたは良いが、その内容に小虎はふと表情を下げ、暫し沈黙を続けた。
生徒達が、どうかしたのか、と不安にどよめく中、役員達も何かあったのかとお互い顔を見合わせる。


「……次に夏休み補習期間について説明します……」


無言でいた小虎が、若干声のトーンを下げて喋り出した事に疑問に思いながらもホッ、と一安心した一同は改めて小虎へと視線を向ける。


「夏休み最初の五日間が補習期間となっています。補習を受ける生徒さんは事前に担任の先生より声がかかっていると思いますので、その実施される教科の予定日には必ず参加してください。参加しない場合は来学期の成績にも繋がりますので注意してください。補習期間中は生徒会役員及び風紀委員会、担当教科の先生以外の一部の先生方が校舎内にいますので、何かありましたらば遠慮なく申し出ください……」


突然、淡々とした口調で説明し出す小虎に生徒達や生徒会役員、更には教師陣も目をパチクリと瞬かせ、壇上にいる小虎を見遣る。
困惑気味に生徒達は近くにいた人と目配せをして、どうしたんだ?、と小声で聞き合っている。
生徒会も、緊張でつっかえる話し方や、吃ったりするのが通常の小虎からは想像も出来ない話し方にポカンとしていた。


「……えっ、あいつどうしたんだ急に……」

「……さぁ?オレにも良く……」


コソコソと岩代と遠野が話しているのを横目に、紀野も心配そうに小虎を見つめる。


「……うぅ……」

「「「……?」」」


突然、壇上のマイクから唸り声が聞こえたかと思いきや、見れば小虎が涙目で説明文の書かれた紙を見つめる姿が。
淡々と読み上げるのもそうだが、何時の間にか涙目になっていて、突然どうした?!、と体育館はザワリとどよめき出した。


「……補習……」

「「「……んん?」」」

「補習……参加される方……頑張りましょう……一緒に」


顔を俯かせながらポツリポツリ呟く小虎に、今度はシン……、と静まり返った。
スンと鼻を啜ってから一礼して小虎はトボトボと壇上を立ち去った。
どうしたものかと、どうしたら良いのかと慌てだす生徒達の耳に入ったのは、司会進行を務める紀野の声だった。


「以上で終業式を閉会いたします」


苦笑交じりに告げられた、なんとも不思議な終業式が幕を閉じた。


2015/11/6.



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