『小虎の恋模様』
19 Side 紀野
残りの書類はあと三枚。保健委員会に提出する書類と、岩代先生に渡す用の書類が二枚。
まずは保健委員会用の書類を提出する為に保健室へ行こうと、保健室に近い方の階段へ向かう。
「お、紀野じゃねぇか。お勤めご苦労さーん」
「……げっ」
階段に差し掛かろうとしたその時、聞き覚えのある声に呼び止められて振り向けば、案の定声の主は相田さんだった。
正直オレは相田さんを苦手に思っている。というか嫌いな部類だ。
だから口から出た言葉は無意識とはいえ、とても素直な感想で、そんなオレに相田さんは眉を顰めながらこちらにやって来る。
「んな嫌そうな反応しなくても良いじゃねぇか。可愛くねぇな」
「オレに可愛さを求めないでください」
「中学ん時は可愛げあったのにな」
「………」
別に中学の時も普通だったのに、どこに可愛げを感じたのかは謎だけれど、そんな事をオレ相手にもサラリと言ってのける辺り、昔から変わらない噂通りの人なんだと本当に思う。
呆れた眼差しを向けていれば、気付いた相田さんはニマリと不敵な笑みを向けてくる。
……少し機嫌が良いようだけど、何かあったのだろうか。
「随分とご機嫌ですね」
「ん?そうか?……それより、書類どこに持ってくんだ?」
「保健室と岩代先生の所ですけど」
「んじゃ、オレも付いてこっかな」
「は?……なんでですか」
怪訝な顔で聞いてみれば、別に暇だから、とそっけなく返されてしまった。
暇だからって役員の務めは終わっているんだから、引き継いだ後輩に任せてさっさと帰れば良いものを……っていうかオレがあまり一緒にいたくない、っていうのが本音なんだが。
だってこの人、明らかに賀集狙いだし。先輩で前生徒会長だとしても賀集を渡すつもりはないけれど。
断ろうと口を開きかけた瞬間、手に持っていた書類を奪われて、さぁて行くぞー、なんて言いながらさっさと階段を降りて行ってしまった。
……強引さは相変わらずご健在の様ですね……。
仕方ない、と溜め息を吐いて相田さんの後を追う様にオレも階段を降りた。
「では、確認の方お願いします」
「ご苦労様。ところで相田君はどうして一緒なんだい?」
「あぁ、オレ付き添いですよ。後輩思いでしょ?」
あはは〜、なんて保健の先生と談話する相田さんを見て、暇だから付いて来たんだろ、て言ってやりたい衝動に駆られる。
が、だからって別にどうしたっていう話だから言わないけれど、談話しているならこのままここに置いていって良いかな?、と思いオレは先生に一言挨拶をして保健室を出た。
置いていく気満々だったから保健室のドアを完全に閉めようとすれば、ガッ!!、とドアを掴まれて閉まりきるのは不可能となってしまった。
「なんで置いてくのかな?紀野君は」
「このままここで先生と楽しくお話してれば良いんですよ」
「付いてくっつったろ。それともアレか?嫉妬か?」
「……なんで貴方相手に嫉妬しなきゃならないんですか」
自分でもわかる程冷たい声と冷めた目でウンザリしている、という事を伝えれば相田さんは苦笑を漏らすだけだった。
あとは職員室にいるであろう岩代先生に渡すだけだし、そうすれば恐らくは相田さんも帰ってくれるだろう。
職員室なんてもう直ぐそこにあるんだから、もう暫くの辛抱だな。
そう諦めて職員室に向かう為歩き出せば、相田さんも同じく動き出した。
……なんでこの人オレと一緒にいるんだろう?生徒会室に行けば賀集がまだ残っているかもしれないのに。
改めて不思議に思ってチラリと相田さんを盗み見すれば、ふと視線がぶつかって、相田さんの双眸と口角がニマリと弓形に撓う。
「そういやさ」
「……なんです」
「賀集どうしてる?」
何故このタイミングで賀集の話になるのだろうか。
その考えが顔に出ていたのか、相田さんは、学年違ぇからちょっと気になってよ、と続けた。
2015/9/15.
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