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『小虎の恋模様』
13


周りのざわめきが広がる食堂内だが、四人が座るテーブルの周りには一定の距離を置いて囲い込む様な形で生徒達が集まっていた。


(…………何これ怖い……)

「お前らが来るから小虎怯えてんぞ。帰れ」

「あ?別に何もしてねぇだろ」

「オレ達、賀集を怖がらせる様な事したかな?」

「へっ?!あ、や、あの……」

「お前らじゃなくて周りの状況だよ馬鹿」


周り、と言われて紀野と巽が二人から顔を背けて反対側を向く。
向いた事によって囲っていた生徒達は再び、きゃあきゃあと騒ぎ出す。
紀野と巽はランキング上位者であって、それ故に元生徒会長に選ばれた者と風紀委員長を務めているのだ。
こういった反応をされるのはわかりきっている事だし、何よりも慣れている。
だから二人は気にしていない事だし、小虎や草間も十分理解しているのだが、それでも目立つのが苦手な小虎にとっては、理解していてもやはり苦手なものは苦手なのだ。
紀野と巽に向けられて上がる声に小虎はビクビクと肩を揺らす。
気を逸らせようと草間が小虎に話しかけるが、大丈夫だと答える小虎は既に涙目になっていた。
その様子を見た紀野と巽はお互い目を合わせ、徐に席を立った紀野は集まっている生徒達の前まで歩み寄り何かを話し出している。
それに首を傾げている小虎と草間と、席に残って胡散臭そうな目で紀野を見ている巽の耳に、先程から男にしては甲高い声で、はーい!!、と良い返事が聞こえ、囲っていた生徒達がゾロゾロと解散していった。
それを見届けて紀野は席に戻ってきた。


「……紀野、何したんだよ」

「別に?少し話をしたいから静かにしてって言っただけだけど」

「いやいや、薊の事だ。絶対それだけじゃねぇだろ?」

「まぁ、そうだけど……」

「……?」


巽の指摘にチラリと小虎を見る紀野。
何がなんだか良くわかっていない小虎は首を傾げるばかりだった。
そんな小虎を見て紀野は愛おしいものを見るかの様に目を細めながら小虎の隣に座り直す。


「これで落ち着いてご飯食べれる?」

「え……?あ、うん」


良かった、と微笑む紀野に、自分の為に周りの生徒達に声をかけて解散させてくれたのだろうか、と思い至った小虎は頬を染めて俯いた。
そんな小虎を目を細めて見つめる紀野を、向かい側に座る草間と巽は冷めた視線を向けていた。
改めて食事を再開させた小虎と草間は、食べ終わるまで他愛もない会話を紀野と巽を含めて繰り広げていた。
食事が終わった頃を見計らって、巽が真剣な声音で話し出した。


「よし。んじゃあ、ここから本題に入るとして」

「……ほ、本題……?」

「そう。草間から話は聞いてるかもしれないけど、吉野先輩の話だよ」


紀野の口から吉野の名前が出た瞬間、小虎はピクリと肩を揺らした。
先程、草間から話を聞いたばかりだからか、少しばかり緊張した状態で小虎は紀野と巽の話を聞く。


「吉野先輩の謹慎が解かれて明日からまた学校に顔を出すから、賀集には少し気を付けて行動して欲しいんだ」

「草間の話だと、吉野は外面だけは良いみたいだからな。また会長君に接触する可能性がある」

「そ、そか……」

「"そか"って。それだけかよ」

「まぁ、昼間とか大半はオレが付いてるから余程の事がない限りは大丈夫だとは思うけどな。それでも一人で行動とかあんますんなよ、小虎」

「ん?……んん??」

「……わかってねぇな」

「賀集可愛いなー」


それぞれ思う事を口にするが、言われている当人の小虎は、何故皆してそんなに注意してくるのだろうか?、といまいち理解していなかった。


「えと……良く、わからないけど、気を付けとく。で、でも吉野先輩がなんでまたボクに会うの?」

「……え、それは……会うだろ?」

「え、どうして……?」

「小虎。部屋でオレの話、聞いてた?」

「?聞いてたよ?」

「「…………」」

「?」

「まずは自覚させた方が良いのかな?これは」


いまだに疑問符を頭に浮かべる小虎に対して草間と巽は、マジか……、とガックリと項垂れ、紀野は苦笑するしかなかった。



2015/7/6.


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