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『小虎の恋模様』
9 Side 草間


GW終了の二日前。
小虎が一度家に戻ると言って寮を出たのは午前中の話だ。
今までは生徒会の仕事が一段落付いて時間が空いたらオレの部屋や小虎の部屋で話したりゲームしたりして過ごしていたから少しだけ暇だったりする。
日も沈み、夕食の時間になって寮に残っている生徒達が食堂に向かうその波にオレも紛れ込んで向かう。
GWで一時帰宅している生徒もいるとはいえ、残っている生徒の数もそれなりで、食堂の賑わいに普段とあまり差を感じない。
夕飯にサッパリしたものが食べたかったから蕎麦を注文して、食堂のオッサンに食券を渡して作ってもらう。
オレは初等部の頃から食堂を利用するが、小虎は購買でパンを買って済ましたり自炊するという、この学園ではわりと珍しいタイプで、その関係で去年まではオレもそれに合わせていた。
が、小虎が生徒会の役員になってからは、昼休み等も仕事で一緒に飯が食えない時もあって、最近はまた食堂を良く利用する。
まぁ、でも基本は教室で一緒に食べるんだけれども。
そんな事を考えながら蕎麦に箸を付けていれば、賑やかな食堂の中で誰かがオレの名前を呼ぶ。
呼ばれた方に目を向ければ、そこにはオレとしてはなんとも珍しい奴等に声をかけられたのだった。


「巽に紀野じゃん。オレに話しかけるなんて珍しいな」

「そっちこそ一人なんて珍しいじゃねーの」

「小虎なら今日家帰ったぞ」

「あ、成程。どうりで薊のテンション低い訳だ……」


そう言って後ろを振り向く巽にならってオレも見れば、後ろにいた紀野は巽の言った通りテンションが低い……というか寂しそうなオーラが出てる様に見える。
どうしちゃったのよ?、とオレが巽に小声で聞けば、朝からこんなんでさ、と呆れた声音で返って来た。


「ずっとこんなんで理由聞いても言わねぇから謎だったけど、今わかった」

「あー……、オレもわかった気がするわ。小虎だな」

「会長君だわな」

「お前ら聞こえてんぞ」


ボソボソと小声で巽と話をしていたのに、どうやら紀野の耳には届いていたらしく注意をされた。
てか口調がなんか違くないですかね?人気者の副会長さんよ。
そんなオレに気付いたのか巽が隣で、これが素だぜ?、と答えてくれた。マジか。
普段もっと優しい声音だから驚いたけど、それはアレか?小虎の前だからなのか?わかりやすいな……意外だ。
そう思っていれば、ガタガタとオレの座る目の前の空いている椅子が引かれて、二人は何食わぬ顔でその席に着いた。
一時帰宅している生徒がいるとはいえ、沢山の生徒が集まっているっていうのに役員専用階に行かずに何故オレと共に飯を食おうとしているんだこいつらは……。


「副会長様、委員長様。お席は二階にございますよ?」

「良いじゃねぇか、たまには。オレも蕎麦にすっかなー」

「じゃあ、オレ海鮮ドリア」

「いやなんでオレが買いに行く流れなんだよ……」


そう言いつつも紀野の分の注文をしに行く巽を見て、面倒見が良いんだなと感心した。
因みに紀野に対しては、ふてぶてしい奴なんだなと思った。
恐らく相手が巽だからなのだろう。
二人が幼馴染みだというのはこの学園に長く通う輩の間では普通に出回っている話だ。
いまだに眉間に皺の寄っている紀野に視線を向ければ、それに気付いた紀野が不機嫌そうに、何?、と聞いてくる。


「いや。普段のお前からしてだいぶ違うなと思って。やっぱ小虎の前でだから優しいのか?」

「……別に普通に話してるだけだけど」

「えー、全然違うぜ?今のお前、絶対小虎に見せねぇだろ」

「当たり前だろ。不安にさせる訳にはいかないし」


そこまで言って紀野は溜め息を零した。
一応、小虎の性格とか考えてはくれてんだな、とか、マジで小虎に気があるんだな、っていうのが伝わった。


「しかし……半日以上も賀集の顔を見れないのは辛い……」

「……お前、夏休みとかどうすんの?」


はぁ、と溜め息付きながらテーブルに突っ伏する紀野を見て、だいぶやべぇなコレ……、と若干引いた。
小虎に対しての好きの度合いがちょっと重いぞ……。
まぁ、それだけ本気ではあるのか、そう納得してオレはまた蕎麦を啜る。
そうしていれば、注文しに行っていた巽が自分の分の蕎麦と紀野の海鮮ドリアを持って戻って来た。


「おら、持ってきたぞ。寝んな」

「どーもー」

「……本当、別人みたいだな」


そんな幼馴染みだからこその対応なのか、気兼ねなく行われるやり取りを見てちょっと笑えた。



2015/6/30.


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あきゅろす。
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