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『小虎の恋模様』
7


その後、姉に更に話を掘り下げられて小虎が紀野に好意を持っているという事と、どういった経緯でそうなったのかまで話す事になった小虎は、寮に戻るギリギリまで逃げる事は出来なかった。
家を出る際に姉から、今度は例の子連れて来なさいよー、なんて良い笑顔で伝えてくるものだから小虎は慌てて家を出た。





寮に着いた頃には既に日は沈んでおり、寮の管理人に挨拶をしてから部屋に向かう。
部屋に戻って家から持ってきた荷物を片付けたら食堂に行く予定をたてた小虎は、草間に帰って来た事を伝えるメールを送り、直ぐに返事が返ってきたのを見て一息吐いた。
メールには、オレも一緒に飯食う、とも書かれており、そうと決まれば急いで片付けを済ましてしまおうと寮内に備えられているエレベーターのもとまで急ぐ。
あと少しでエレベーターに着く、そう思った時、前方に二人の人物が立ち塞いでいる姿が見えた。
別に寮内は自由に過ごす事が出来るのだから生徒がどこにいようと勝手だが、この二人は明らかに小虎の行く手を阻んだ様に立っている。
極めつけに小虎を睨みながら小虎に向かって歩み始めたのだった。


「賀集 小虎ぁ!!」

「ひぇっ?!は、はははいッ!!」


小虎へと歩み寄る一人が威嚇しながら小虎の名前を叫ぶ。
その勢いに気圧され、小虎は青ざめながらその場に立ち尽くした。
小虎の数歩手前まで来たその二人に小虎はどこかで見た事があるとやっと気付き、必死になって思い出そうとする。



「オレは江ノ島 和巳(エノシマ カズミ)。紀野 薊様の親衛隊隊長をしている。同じ学年だから顔位は知ってんだろ」

「同じく紀野様の親衛隊副隊長の鈴原 実里(スズハラ ミノリ)です。クラスは2-Bです」


小虎を睨み付けていたのは親衛隊隊長と名乗った、紀野と同じ2-Aの生徒、江ノ島と隣のクラスの親衛隊副隊長を務める鈴原だった。
この学園では、所謂人気者と呼ばれる者達には親衛隊というものが存在している。
役員に選ばれている生徒達は勿論の事、その他にもその対象の生徒がいれば作られる組織的な集団だ。
公認されているのが殆んどではあるが、中には非公認でこっそり組まれた親衛隊も存在している。
因みに生徒会長に選ばれた小虎には、もともと親衛隊が存在しない為、今の所もそういった組織が存在しているという報告はまだ上がってきてはいない。
そんな紀野の親衛隊トップの二人に呼び止められる理由が思い当たらない小虎はビクビクしながら小首を傾げる。
その様子にイライラと怒りを募らせるのは江ノ島だった。



「そんなあからさまにビクつくなよ!!ムカつくなぁ!!ちょっと話したいだけじゃん!!」

「和巳がそう怒鳴るから賀集君が怯えるんでしょう?」

「はぁ?!怒鳴ってないし!!普通だし!!」


目の前で繰り広げられる行いに、小虎はこの後どうしたら良いものかとオロオロと見届けながら考える。
江ノ島は先程"話したいだけ"と言っていた。待ち伏せをする位だから余程重要な話なのだろう。
ついでに紀野の親衛隊の二人だ。話は恐らく紀野の事。
そこまで思い至って、紀野の事で何を聞かれるのかと心配になった。
何故ならば小虎よりも二人の方が紀野の事は詳しい筈だからだ。
そんな二人も知らない様な紀野の情報なんて小虎は持ち合わせていない。
一向に話が進まないこの状況に小虎は、帰っちゃ駄目かなぁ……、と他人事の様に考え始めていた。


「ちょっと」

「っ、は、はい!!」


急に声をかけられたものだから、考えていた内容がバレてしまったのかと小虎は焦りながら返事を返す。
その直後、江ノ島は小虎に向かって人差し指を突き出して睨み付けながら言う。


「オレは紀野様の親衛隊隊長として紀野様の健やかなる学生生活を送って頂きたいと思っているし、紀野様の幸せの為ならなんでもするし応援もする!!……だけどこれだけは言っておくからな!!」

「な、ななななんですか……?」


親衛隊としての目的等を話す江ノ島を見て、江ノ島君は本当に紀野君の事を思っているんだなぁ、と小虎は内心呑気に思った。
だが、話の続きがまだあるらしく、しかも今度は指先を震わせる程怒りを露わにしていて、終いには若干涙目になりながら彼は言い放った。


「オレはお前を認めないぞ、賀集 小虎!!これは隊長としてではなく、オレ個人の気持ちだ!!」


叫ぶ様に言いながら走り去って行ってしまった江ノ島に、小虎はポカンと呆け面を晒す。
どういう意味なのだろうかと呆気に取られていれば、クスクスと笑う声がしてそちらに視線を向ければ、小虎と江ノ島のやり取りを静かに見ていた鈴原が苦笑を零していた。



「ごめんね、急に。和巳は紀野様の事が本当に大好きだから、ずっと我慢してたんだけどね。ついに抑えきれなくなっちゃったみたいで」

「は、はぁ……?あの、今の……どういう……?」

「気にしなくても良いよ。引き止めちゃってごめんね」

「あ……」


江ノ島の発言の意味を聞こうとした小虎だったが、鈴原にはぐらかされてしまい、真相を知る事が出来なかった。
鈴原はペコリとお辞儀をしてから江ノ島の走り去った方へ歩み始めた。
そのまま立ち尽くす事しか出来ない小虎は、小さく小首を傾げる。
その時ポケットにしまった携帯が震えて、草間からのメールに夕食を一緒にとる事を思い出して慌ててエレベーターに乗り込んだ。



2015/6/20.


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