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『小虎の恋模様』
6


「ただいまぁ……」

「えっ、小虎帰って来たの?!」


おかえりー!!、と帰宅した小虎を姉が出迎えた。
何故そんなに帰って来た事に吃驚されているのかが不思議でならない小虎は、どうしたの?、と姉に聞く。


「だってデートだったんでしょ?寮に帰るギリギリまで帰ってこないかと思ってたから」

「で、ででデートじゃないってば!!お買い物!!それに相手は先輩だから」

「人見知りの小虎が先輩とデートねぇ……」

「だからデートじゃないってば!!」


ぷくぅと頬を膨らませて言えば、ごめんごめん、とからかっていた姉は素直に謝罪する。
小虎も、もう良いと言わんばかりにリビングに向かい、母親に帰宅した事を告げる。
因みに父親は仕事休みが昨日までらしく、今日は仕事に出ていていない。
挨拶を済ませてから小虎は、自室に向かう前にお土産を姉に手渡し、それから足を運んだ。
お土産に関しては大変喜んでもらえた様で、その旨を伝えに姉が小虎の部屋にお礼を言いに訪れて、小虎も嬉しい気持ちになったが、自分の手に持つ紙袋を見てまた溜め息が出る。


「……それ、随分と珍しいお店で買い物してきたのね」

「えっと……。これボクが買ったんじゃなくて、先輩が買ったやつなの」

「?なんで持って帰ってきちゃったの?」

「あ、ううん。これボクにって」

「……買って貰ったの?」


その質問に対して小虎は、うん、と頷いた。
姉が紙袋の中を確認すれば、中の服は小虎に合ったデザインで、しかもそこにあるのだけで完璧にフルコーデ出来る組み合わせに姉は、あらまぁ……、と感心した様な声を上げる。


「結構ガチなプレゼントね。一式なんて……」

「服の値段見て吃驚した。断ったんだけど買っちゃってて……」

「なんて理由でくれたの?これ」

「もともとボクに贈る為の買い物だったらしくて、あと今日のお礼って言ってた」

「おっと理由もガチっぽいわ……」

「何が?」


姉は視線を逸らしながら何かぶつぶつと呟いていたが、小虎の耳には届かず小虎は首を傾げるばかりだった。
意味がわからない、といった小虎に姉は視線を戻し、質問だけど、と小虎に聞く。


「先輩って学園の先輩よね?」

「うん。メールで前に言ったけど、ボク今生徒会長やってるでしょ?その前の会長さんで、引き継ぎの時にいろいろお世話になった人」

「そう。他意があるのかないのかはお姉ちゃんにはわからないけど、これは恐らくはあるのかもしれないわね……」

「……お姉ちゃんの言ってる意味が良くわからない」

「小虎。良く覚えておきなさい。男が女に服を贈る意味を」

「……ボク男なんだけど」

「良いから!!この際男だろうと女だろうと関係ないわ!!むしろ小虎は立場上、女扱いよ!!」

「もっと意味がわからないよ……」


ガッ!!、と肩を強く掴む姉に小虎はビクリと身体を震わせる。
姉の表情は凄く真剣なもので、その気迫さに小虎はゴクリと喉を鳴らす。
そして、良い?小虎……、と姉が話し出す。


「男が女に服を贈るのはね、気があるからよ。そして脱がす為に贈るのよ」

「…………ん?」

「つまり、その先輩とやらは小虎に気があるって事よ!!好かれてんのよ!!脱がしたい程に!!」

「………………んんん??」


いまいち理解出来ない小虎はクエスチョンマークを浮かべるだけで、あああ!!もう!!、とじれったくなった姉は一から説明を始める。
といっても確信めいた話ではないので、あくまでも姉の推測になるのだが。
一つずつ質問と説明を繰り返されて漸く理解した小虎は、頬を染めながら慌てて否定し始めた。


「そ、そそそんなの有り得ないよ!!だ、だだだって先輩は確かに学園でも人気はあるし、慕われてるけど、ボクなんかにそんな感情向ける要素なんてないよ!!」

「でも現に洋服プレゼントされてるじゃない!!いくら金持ちといえどその気のない子に一式プレゼントなんてしないわよ」

「で、でも、だからってそんな……。無理だよ、ボクなんかじゃ……」

「別にその気持ちに良い返事で応えなきゃならないって事はないのよ?好きでもないのに先輩だからってお付き合いしなきゃって訳でもないんだから」

「うぅ……うん……」


姉の推測とはいえどそうなのかもしれないと思える様な事が、今思えば確かにいくつかあった気がするし、その上帰り際に額にキスまでされた事を思い出し、頬を染める。
どうしよう、と眉を下げる小虎の頭を姉は優しく撫でる。


「そうよね、不安よね。小虎、恋愛関係とか慣れてないもんね」

「……お姉ちゃん」

「小虎に好きな人がいれば少しは断りやすくなるんだけどね」

「す……ッ?!」


姉の何気ない発言に過剰に反応してしまった小虎を、姉は見過ごさなかった。
先程よりも顔を真っ赤に染め上げる小虎を見て、……ははーん、と姉は確信した様な声音を上げる。


「小虎。あんた好きな人いるのね」

「へぁっ?!…ち、ちが……」

「そっかそっか何時の間にねぇ。……え?本当に何時の間に?」

「………」

この手の話を小虎は今の今までした事がなかった為、姉も何時どこで小虎に好きな人が出来たのかがわからなかったから、聞いてみれば小虎は気まずそうに視線を逸らすだけだった。


「……学園にいる、と……」

「うぅ……あの……その……」


真っ赤になりながらどうしようかと焦る小虎を見て姉は、この子はこの子でガチだわ……、と納得した。
因みに相田の事といい小虎の好きな人が学園にいるといい、普通では余り起こらない事柄に対して姉の反応は否定的ではない事にこんな状況の中、小虎は不思議に思った。



2015/6/15.


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