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『小虎の恋模様』
5


その後も相田によって選ばれた洋服達を小虎は慌ただしく着替えては披露するを繰り返していた。
若干着替えに疲れを感じた頃には相田も満足した様で、試着した服を店員に渡して片付けてもらい、数着はレジに持って行ってもらった。
自分の服に着替え直し靴を履いている間の出来事で、小虎はレジに服が持って行かれている事に気付くのが数秒遅れる。
相田の姿を探せばレジにいて、まさか……、と思った時には既に遅く、会計を済ましてしまっていた。
試着していたのは全て小虎であって、畳まれて黒い紙袋に入れられる服は試着で着たものばかり。
小虎に合わせて選ばれ、試着した服をまさか自分用に買う事はないだろう。
つまりあれは確実に小虎用に購入された物。
そこまで考えて小虎は顔を青ざめさせ、慌てて相田の元へ駆け寄る。


「せ、先輩!!あの、その、それ……」

「ん?あぁ、これお前の服」

「そ、そんな……。あの、悪いです!!買って頂く理由がないです!!」


慌てて店員に、これお会計いいです!!、と言う小虎に対して相田は、残念。会計は済んでまーす、と笑いながら言う。
どうにか出来ないかと奮闘する小虎を見て微笑みながら店員は袋詰めを進めていく。


「良いじゃねぇか。縁のない服持ってたって」

「だ、だからって先輩が買う事はないじゃないですかっ」

「素直に受け取っておけって。今日のデートのお礼っつー事で」

「で……ッ!!ち、ちち違います!!お買い物です!!」


相田の発言を慌てて訂正するが、バッチリ店員の耳に届いてしまっていたので店員は目を丸くしながら、デートなんですか?、と相田に聞いていた。
それに、そうそう、となんて事ない様に答える相田に小虎はもう何も言えず、頭を抱えた。
会計も済んで紙袋を渡されて、店員に挨拶をすれば相田はさっさと店を出るのに、小虎は慌ててペコリとお辞儀をしてから相田の後を追う。
店を出てからのプランは小虎は知る筈もなく、どうするのかと相田を見るが、相田はスタスタと歩いて行ってしまい小虎は追いかけるという事には変わりはなかった。


「……さって。帰るか」

「え、お買いものはもう良いんですか?」

「お前だって寮戻るまでは家族と過ごしてぇだろ?それに目的の物は買えたしな」

「目的の物って……」


ん、と相田は手に持っていた紙袋を示してみせた。
それと相田を交互に見て小虎は、今日の買い物の理由にやっと気付いた。


「えッ?!えええ?!」

「いやお前驚きすぎじゃね?」

「だ、だだだって……!!その服を買うのが目的って、ほほ本当にそんな事して頂く理由ないですし……!!」

「オレが贈りたかっただけだし。本当はこの後も予定あったけど、今日はそれは良いっつー事で、帰んぞー」

「えええ……、せ、先輩……」


そう言って相田は、まだ納得していない小虎の手を取って駅の方へ歩き出す。
手を繋いだ事で、もともと相田に向けられていた視線が、一気に増えた事に気付いた小虎は慌てて手を離そうとするが、相田はそうはさせないと言わんばかりに手に力を込めて引っ張る。


「デートしてんだから手ぇ位普通だろ?」

「で、ででデートじゃないです……ッ!!お買い物です!!」

「頑なだなぁ〜、お前」


苦笑する相田に小虎は頬を染めながら否定を繰り返した。
手を繋いだまま駅に着き、待ち合わせした時とあまり変わらない人混みの中、相田は持っていた紙袋を小虎に渡す。


「んじゃ、また学園でな」

「あ、はい。あの、これ……い、一応、ありがとうございました」

「今度またデートする時それ着て来いよ?」

「えっ、今回だけじゃ……ないんですか?」

「なんだよ。オレとデートすんの嫌か?」

「あ、いえ、あの……。あ、あとデートじゃないですからっ」

「デートで良いじゃねぇか」


頑固者め、と呆れた様子で呟く相田に、小虎は言葉をつまらせる。
何度言われようとこれはデートではなくてただのお買い物です、という意思を込めて相田を見ていれば、それに気付いた相田がフッ、と笑う。


「とりあえず、今日の事はオレからも礼を言う。気を付けて帰れよ」


そう言って相田は小虎を軽く引き寄せて額にチュッ、と小さくキスをする。
駅構内で、しかも人の多い中行われた事に小虎は一瞬遅れで思いきり相田を押し返し、感触の残る額を手で覆う。


「っな?!な、ななな……ッ!!」

「ははは。すげぇ真っ赤」


ニヤリと笑いながら言う相田を、真っ赤に染まった顔のまま言葉なくパクパクと口を動かし見ていれば、じゃあな、と相田は手を振り改札口の方へ向かって行った。
その後ろ姿を震えながら見つめていたが、なんとも居た堪れなく感じて小虎も急いで駅を出て家に帰った。



2015/6/15.


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あきゅろす。
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