『小虎の恋模様』 19 暫く抱き付き、抱き付かれていた二人は、紀野が腕を緩めた事で離れた。 小虎は突然の事で頭が働かず真っ赤な顔のままでいれば、紀野は小虎の頬を一撫でしてふわりと微笑んだ。 微笑んだ紀野の頬もほんのりと赤く染まっていて、小虎は瞳を揺らす。 「あはは、なんかテレるね」 「へっ?!て、テレ……ッ」 「賀集。あと一つ聞いても良い?」 「え、あ、な……に?」 「うん。あのさ、言いたくないなら良いんだけど。……新歓の時、吉野先輩にされた事なんだけど」 「………ッ」 聞き難そうに話す紀野に対し、小虎はその時の恐怖を思い出しブルリと肩を揺らす。 話した方が良いのだろうか……、そう悩む小虎を見て紀野は、無理しないで、と言った。 「ごめん、怖い事思い出させちゃって。吉野先輩がした事、オレは許せないからどこまで何をされたのか気になって……。でもよく考えたら不謹慎だったね。本当ごめん」 「紀野君……」 申し訳ないと目を伏せる紀野に小虎はどうしたらいいか慌てる。 話すとしたら起きた事全てを話さないとならない。 それも目の前にいる自分の好きな人に。 引かれないだろうか。 軽蔑されないだろうか。 ……仲良くしたいという気持ちは変わらずにいてくれるだろうか……。 そんな不安が募って小虎はどうして良いのかわからず、ジワリと涙を浮かべる。 それを見て紀野が慌てたのが伝わった。 「ごめん!!本当……もう聞かないから」 「う……っ、ご……め……ちが……の……」 「良いよ。大丈夫だから」 そう言って紀野は小虎をまた抱きしめてあやすように頭を優しく撫で、その仕草に段々と落ち着いていく小虎は、呼吸を整え鼻を啜る。 落ち着いていく小虎を見て紀野もホッ、と一安心して今度は小虎の背中を優しくポンポンと叩く。 (紀野君に迷惑かけちゃった……。情けないな……) すんすんと鼻を啜り、涙を拭えば紀野が身体を離す。 大丈夫だよ、と小虎が言えばまた、ごめんね、と謝罪の言葉が降り注がれた。 それも大丈夫だという気持ちを込めてフルフルと頭を振って小虎は意思を伝える。 ギュッ、と力強く抱きしめて貰ったり、頭や背中を撫でられて安心して落ち着く事が出来たという事を伝えれば、紀野は驚いた表情のまま頬を染めた。 変な事言ったかな、と眉を下げる小虎の頭を撫でて紀野は苦笑する。 「そう言って貰えると嬉しいよ。何かあったらオレの事も頼って良いからね。ありがとう」 最後の"ありがとう"はどういう意味なのだろうか。 小虎は不思議に思ったが、紀野の落ち込み具合が和らいだのを見て小虎は安心した。 そのまま紀野は小虎の部屋を出て、再び静寂の広がる部屋に小虎一人となった。 こうして新入生歓迎会は幕を下ろしたのだった。 (……よくよく思えば紀野君にギュッてされた……!!二回もされた……!!あわわわわ……ッ!!) 第一章 完. 2015/5/27. [*前へ] [戻る] |