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『小虎の恋模様』
18


寮に着けば、既に帰宅済みの生徒達ともすれ違ったりしながらエレベーターに乗り込む。
何時もなら仕事帰りは他の役員とも帰る事が多いのだが、今は二人きりの状況に小虎はソワソワと階の表示ランプを見つめる。
会議が終わってから会話はそんなに弾まず、エレベーター内でも無言が続いた。
小虎は、何か会話を……、と考えてはみたものの、普段から紀野との会話は、自分がどもる事で上手く出来ない事を思い出し、情けなく俯く。
もう少し緊張しないでお喋り出来ればなぁ、と小虎は肩を落とした。
役員達の部屋は寮の最上階で、それぞれ一人部屋となっている。
広さも一般生徒の二人部屋に比べて広い造りになってはいるが、去年まで草間と一緒の部屋で暮らしていた小虎からすると、一人暮らしを始めてまだ日の浅いうえに広く大きすぎな点が落ち着かず寂しい部屋に思え、だから時間が許すまで草間の部屋に遊びに行ったりする事も多々ある。
そんな一人部屋の鍵を開けてから小虎は隣室の紀野に向けて一言告げてから部屋に入り、誰もいない静かな部屋に小さく、ただいま、と呟いた。
リビングをすぎて自室に鞄を置き、制服から部屋着に着替えて、この後はどうしようかと考えていれば部屋備え付けのインターフォンが鳴る。


「?……誰だろう。草間君かな」


このタイミングで部屋のインターフォンを鳴らすのは限られている。
一番可能性のある草間が来たのかと思い、小虎は慌てて玄関へ向かい、開錠してドアを開けた。


「草間く……」


草間だろうと完全に思っていたからドアを開けながらそう呼ぼうと顔を見れば、そこには草間ではなく先程別れたばかりの紀野の姿があった。
まさか紀野が立っているとは思いもしなかった小虎は吃驚してそのまま硬直して紀野を見つめ、ドキドキと鳴り響く心臓に合わせて顔に熱を集中させていく。
そんな小虎とは違い、紀野は申し訳なさそうに苦笑する。


「ごめん、どうしても聞きたい事あって……」

「っ……あ、な、に……?」


とりあえずドア越しもなんだから小虎は紀野を招き入れた。
紀野が用事が終われば直ぐに帰ると言った為、玄関先に佇んで話をする事に。
用事である"聞きたい事"とはなんなのだろうか、そう思って小虎は紀野に視線を投げかけた。


「さっき廊下歩いた時、オレつい手握っちゃったけど、大丈夫だった?」

「え……?な、なんで……?」

「ほら、新歓の時。触られるの嫌がったでしょう?それなのにオレ普通に触ったから……」

「…………あっ」


そういえばそうだった。小虎は新歓の時に頭を撫でようとした紀野の手を払いのけてしまった事を思い出した。
あの時は衝撃的な事が起きてまだ混乱していたのもあって、つい払いのけてしまったのだが、その後段々と落ち着く事が出来て廊下で手を握られた時にはもうすっかり平気になっていた。


「あ、あの。あの時……本当、ごめんね……?でも、廊下では全然…平気、だったから」


気にしないで、と続けて言えば紀野は安心した様にホッ、と息を吐いた。
本当に小虎を心配して、気にしてくれていたんだというのが伝わって、小虎は頬を染めて俯く。


「良かった。後々になってから賀集に嫌な思いさせたと思ってね」

「き、気にしすぎだよ……」

「気にするよ。言ったでしょ?オレ、賀集と仲良くなりたいって」

「……ッ……う、うん」


助けて貰った後に言われた言葉を改めて言われて胸がジンと温かくなった。
嬉しくて恥ずかしくて、でも本当に良いのかな、とそんな思いがぐるぐるしているけど、紀野のその気持ちは小虎にとって本当に嬉しい事だから頷いた。


「ぼ、ボク……も……」

「ん?」

「……ボク、も……紀野君と、……な、仲良く……なり、たい……です……」


真っ赤になり語尾は相変わらず小さくなっていったが、紀野からの申し出に同じだという気持ちを小虎は伝えたかった。
まさか言える日が来るなんて、そう思って小虎はドキドキしながら返事を待てば、紀野が一歩踏み出し、そのまま小虎を包み込む様に抱きしめた。


「―――ッ、?!き、きき紀野く……?!」

「ありがとう、賀集!!凄い嬉しい!!」


ギュウッ、と力強く抱きしめながら嬉しいと本気で思っているのがその声音でわかり、小虎はボン!!、と音が出そうな程全身に熱が籠り、心臓も何時もより更に速まった。


2015/5/27.



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あきゅろす。
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