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『小虎の恋模様』
16


「蓮汰郎も一緒だけど大丈夫?別にしてもらう?」

「えっ!!う、ううん!!風紀委員も参加だし……、い、一緒でダイジョブ、です……」

「そ?残念。別が良かったな」

「……へ?!あ、ああの……?!」

「あはは。あ、草間帰るんでしょ?賀集貰ってくね」

「……"貰ってくね"に込められる意味は深いかな?」

「好きに捉えると良いよ」

「……?」


うわぁ……、と小さく呟く草間と、ニコリと良い笑顔を向ける紀野の会話に小虎は首を傾げた。
そのまま草間はその場を立ち去り、去り際に小虎の肩にポンと手を置いたが、その意味もわからず、更に首を傾げる事に。
紀野が、行こうか、と歩き出したのを見て小虎も付いて行けば、周りの視線がこちらに向いている事に気が付く。
だいたいの人の視線は皆紀野に向けられているが、中には小虎を睨み付けている視線も交じっていた。
そんな視線に気付いた小虎は、理由がわかる為ビクビクしながらドアまで進んだ。


「お、出て来た。さっさと会議終わらせようぜ」

「何か用事でもあるのか?」

「走り回って疲れたから早く休みてぇんだよ。会長君もそう思うだろ?」

「へっ?!あ……う、うん。そ、だね……」


突然話を振られてびっくりしながらも答えれば、じゃあ急ごうぜ、と巽が先頭を歩く。
続くように紀野が歩き、小虎もその後ろに付いて行こうとすれば、ヒソリと周りの話し声が耳に入ってしまった。


「ねぇ、なんで紀野様や巽様があんな奴を…?」

「生徒会長だとしても、あんな奴が」

「てゆーか紀野様押しのけてなんであの人が会長なの?ボクまだ納得出来ない」

「同感。向いてないよね」

(……うん。本当、ボクもそう思うよ……)


聞こえてしまった声はしかたない事でもやはり気まずくなってしまい、自然と手に力が籠ってしまう。そんな時、力の込められた掌を掴み、そのまま開かされてギュッ、と握られた。
びっくりしてその手の先を見ればやはりと言うべきか、紀野で。


「――……ッ、!!」

「周りの声なんか気にしなくて良いんだよ?オレが賀集を会長に指名したんだから、責めるならオレを責めろって話だしね」

「そ、んな……。あの、ボク……大丈夫、だよ。それに……紀野君を責める人、この学校には……いないよ」

「賀集は被害者みたいなものだからオレを責めても良いんだからね?」

「えっ?!や、ボクも責めるつもりは……!!」


そんなつもりはないと慌てて伝えれば、そう?、と申し訳なさそうな表情で紀野は答える。
手を繋いだまま廊下を歩けば周りの生徒の悲鳴に近い叫び声があちらこちらで響いて、小虎は更に顔を真っ青にするが、その都度紀野が力を込めて握る事で、小虎は少しずつ落ち着く事が出来た。


(……でも心臓、うるさい……)


しかたのない事でも、大きすぎて紀野に聞こえてしまっているのではないかと、そう考えれば更に心臓がドキドキと脈打ち、顔にも熱が籠り、ギュッ、と目をきつく瞑った。


(どうして紀野君はボクに優しいんだろう……)


紀野に一目惚れして、好意を持ち始めてから紀野をよく目で追っていて気付いた事がある。
確かに紀野は周りからの人気が凄くて、よく頼られて、よく声をかけられてて皆の中心にいる、そんな様子を毎日目にしていた。
だけどその中で紀野が小虎に向けるような、優しくてふわりとした態度や微笑みを振り撒く所を、小虎は一度も見た事がない。
幼馴染みの巽と話す時も時折見せるだけで、しかし回数としてはそれ程多いという様子もない。
なのに小虎に対しては、去年のあの雨の日からずっと変わらず心臓を高鳴らせる笑顔を向けてくれる。
ドキドキして顔も熱くなって恥ずかしいけれど、それがなんだか嬉しく思う反面、何故だろうという思いが頭から離れない。
本人に聞いてみるのが一番だけれど、それを聞いてしまえば自分が紀野を見ていたという事もバレてしまうので小虎は聞けずにいる。


(……ボクが頼りないから……かな……)


自分の性格や内面を誰よりもわかっているからこそ、迷惑がっているからとか、足を引っ張らないように仕方なくとか、そんな理由でされているのではないか、と不安になってしまう。
生徒会の皆や風紀委員、その他の生徒達に迷惑をかけたくないと思ってはいるが、小虎はあらゆる事全てに迷惑をかけているのではないか、と思っている。
そもそも何故自分が役員候補に選ばれる程の投票が入ったのか、そこからまず謎だ。


「賀集、大丈夫?会議始めるの少し遅らせる?」

「え?あ……ううん、大丈夫。その……考え事、してて……」

「おーい。イチャついてないで早く行くぞー、二人とも」

「へ……?!い、イチャ……ッ?!」

「羨ましいんだろ」

「??!!」

「ちげーよ、アホ」


ニヤリと告げる紀野に呆れた様子で巽が答える。
そんな二人のやり取りを、小虎は顔を真っ赤にして聞いていた。


2015/5/12.



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