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『小虎の恋模様』
8


4月の後半。ついにやって来ました、新入生歓迎会―――鬼ごっこ!!
少しばかり外は風が冷たいが、思いっきり走り回るには丁度良い感じで、周りの生徒達も皆楽しそうにしていた。


「てか小虎、走れんの?」

「……死ぬ思いで走るよ」

「そうか。オレ、オニだからなるべく小虎探すわ」

「早く見付けてね」

「捕まる気満々かよ」


始めに体育館に集合する為、小虎たちは並んで向かっていた。
生徒会と風紀二人を入れて話し合いをした結果、一年生は全員逃げる側で、二・三年生はそれぞれ半分を逃げる側、残りの半分をオニ役に分かれるのが妥当だと判断した。
そしてオニ役にはわかりやすいようにゼッケンを着用してもらう事になり、オニ役はランダムに配分され、草間はオニ役に選ばれた為この後ゼッケンを受け取りに。
そこで小虎たちは一旦別れる事になった。
別れた後小虎は役員の集まるステージ横へ向かった。
だが小虎の足取りは重い……。
何故ならこの後ルール説明をしなくてはならないからだ……。
これは生徒会長の務めで、お前の為だ!!、なんて岩代が有無を言わせずにルールの書かれた紙を押し付けてきたのだ。


「賀集会長!!」

「ぅへぇぃ?!」

「なんすか、その返事」

「……あ、や、山……内君……?」


突然後ろから声をかけられ、小虎がびっくりして変な声を出す。
そんな小虎を見て山内は顔を背け、笑いを堪えているのだろうか、肩が揺れている。
顔に集まる熱を隠すように掌で覆っていれば、大丈夫ですか?、と心配されてしまった。
大丈夫だと伝える為、小さくコクリと頷けば納得したようだ。
山内とは補佐として入った日から一緒に仕事をしてきているが、中学で役員を務めてただけあって本当に仕事の出来る後輩だった。
会長初体験な小虎がわからない時等に何かと手を貸してくれて、これじゃどっちが会長よ、って遠野に笑われてしまった位だ。
そんなこんなもあって山内には少しは慣れたけど、やはりまだ草間みたいに話慣れなくて情けなく思う。


「……あ、の……」

「はい?」

「その……。会長……って、いうの……は、やめない?」

「え?だって賀集会長、生徒会長さんじゃないですか」

「そ、そそそれ、でも……カイチョ……呼びは……死ぬ」

「え"っ、そこまで?!……わかりました。じゃあ、賀集先輩で」

「ん……あり、がと……」


良かった……、と一安心していると隣で笑ったような気配を感じて振り向けば、どうかしましたか?、と聞かれてしまった。
特に理由がない為、なんでもないと首を振って答える。
ゼッケンを受け取ったオニ役の人達も集まり、体育館は一気に賑やかになった。
何時も通り綾小路が進行を進め、ザワザワと賑わう中、ルール説明の順番が回ってきた。
つまり小虎の出番という訳だ。


「続いて会長よりルール説明に入ります」

(――っ!!き、来たぁ……!!)


呼ばれて心臓が破裂しそうな位バクバクと早鐘を打つ。
破裂どころか今にも体内から飛び出してしまいそうだ。
ガチガチに固まった身体でゆっくりステージに上がり、マイクに向けば全生徒が小虎に注目していた。


「え、ええと……る、ルールの説明を……始、めますッ」



緊張しすぎて声が裏返った。
恥ずかしいッ!!!!、と一人あわあわしている小虎を見て目の前の生徒達がヒソヒソと何かを話している。
よく聞き取れなかったが、大丈夫かなー?、とかの心配そうな声や、あがり過ぎじゃね?、といった感じの声も聞こえたような気がする。
兎に角話さなきゃ鬼ごっこ始まらない、そう思って小虎はルールの書かれた紙を改めて握りしめて読み上げた。


「ほ、ほほ本日、の鬼ごっこでは、お、オニ役の人は、見ての通り、ゼッケンを着けて、いる人達ですッ。オニ役は、30秒……数えた後、スタートします。逃げる人達は、学園の敷地の中で、普通教室と寮、食堂、職員室な、ど、鍵のかかって、いる所以外の、範囲で行動、してください。逃げる人は、オニ役、に、タッチされたら、オニ役に配ら、れた番号入りシールを、見える所に貼って、この体育館に戻って来てください。せ、制限時間は、四時間です。時間に、なりました、ら、放送が入りますので、つ、捕まってない、人も、オニの人も全員ここに、集合、してもらいますッ。さ、参加した人達全員に学食、一週間割引券が……、沢山捕まえた、オニ役の、上位五名、には景品、が、あるので、皆、さん頑張って……くだ、さ……い……」



語尾に連れて小虎の声は段々小さくなっていく。
説明中も説明後もヒソヒソ、ザワザワして体育館内は落ち着きなかった。
綾小路が、次に進める為に小虎に声をかけ、小虎は急いで下がろうとしたが、そこで立ち止まって改めてステージ中央のマイクにまで戻った。
皆が、なんだなんだと不思議そうに小虎を見る。
心臓の音は相変わらずうるさいし、説明の下手さに申し訳ない気持ちで鼻の奥がツンと痛くなったが、小虎は意を決してマイクに向かった。


「あ、あああのっ!!せ、説明、上手く出来なくて……ご、ごめんなさい、でした……ッ」


言いながら抑えていた涙が溢れそうになった。
流すものかッ!!、と鼻を啜りながら謝罪の言葉を述べれば、ぜ、全然大丈夫ですッ!!!!、と体育館が震える程の声量で返された。
いきなり上がったその大きな声に小虎はビクリと肩を大きく震わせる。
何が起きたのか良くわからないが、小虎は慌ててお辞儀してステージを降りれば岩代に、天然タラシかお前は……、と言われた。
綾小路がそのまま進行する中、なんとなく近くの生徒の視線を感じ、小虎はソソソ……、と山内の後ろに隠れさせてもらった。
次に役員の説明を巽がする為ステージに上がる。


「これも事前に聞いてると思うが、生徒会役員は全員逃げる側、オレ達風紀委員会は見回りも兼ねてオニ役だ。歓迎会で浮かれるのもわかるが、羽目を外し過ぎる行動は控えるように。それと無暗に追い掛け回したりして怪我人を出さないように。なお、生徒会は捕まった者はそのまま見回りに入るので、そのつもりで」


以上、とあっさり戻ってくる巽を見て、凄いなぁ、と小虎は思った。
説明も終わり、閉会の言葉を告げていよいよ鬼ごっこがスタートされる。


2015/4/25.



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