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『小虎の恋模様』
7


暫くすれば購買に行っていた巽と顧問の岩代が一緒にやってきた。
巽が頼まれていたコーヒーを紀野の前に置き、本人は買ってきたご飯を食べ始める。
岩代の後ろに生徒が一人隠れるようにそこにいて、誰だろう?、と小虎は首を傾げる。
少し遅れて遠野と綾小路、そして風紀副委員長の生徒がやってきた。
生徒会と風紀のトップ二人が揃ったところで岩代が、始めるぞ、と声をかける。


「まず始めに、生徒会役員の補佐を紹介するぞー」


そう岩代が言って、隠れてた生徒が一歩前に踏み出す。
補佐役は一年生の中から一人宛てられると冬休みの集まりの時に説明されていた。
小虎よりも背の高い茶色の髪の一年生は優しそうな笑みを向けながら口を開く。


「今日から生徒会役員補佐を務めます、1-A山内 貴史(ヤマウチ タカシ)です。中学でも役員を務めてましたのでいろいろ役には立つと思います」


宜しくお願いします、と頭を下げる一年生―――山内は、落ち着いた雰囲気で挨拶を済ます。
簡単な挨拶ではあったが、いい人そうなのは十分に伝わってきた。
岩代もサクサクと話を進めて、今度行われる予定の新歓の話に移る。


「今年の新歓は、事前に新入生にアンケートした結果、全生徒での"鬼ごっこ"になった」

(………先生今なんて言った?)

「お?なんだー?何か言いたそうだな、賀集」

「ひえっ?!い、いいいえ!!」


まさか行われる催しが鬼ごっこだなんてとか、高校生になってまでやるとは思いもしなかったとか、いろいろ思った事が顔に出ていたらしく、岩代に目敏く見つかった。
慌てて否定すれば、なんでもないように気にせず話し合いが進められた。


「いろいろ決めないとだな。行動範囲は?」

「人数の配分もどうします?」

「一応、範囲は先生達が決める。配分に関してはそっちで決めて調整してくれ。ただし、生徒会役員は全員逃げる側のご指名が多かったからその辺は変えんなよ」

「げぇー、逃げる側とか大変じゃーん!!オニだったらゆっくりしてられるのにぃー」

「どうどうとサボリ宣言すんな遠野ー」


冗談を交えながら進む話に、でも決める事が多く、そして人数が多い分規模も大きい為、なかなかいい案が出ない。
ふと小虎は、ここにいるメンバーは鬼ごっこをした事があるのかが気になった。
草間の話によると、この学園は自由な校風を謳うなか、教育面に関しては厳格な部分もあり、社会に出る時の為にもしっかりとした対応で過ごす所があるから外の学校とは違い窮屈な面もあると話していた。
つまり恥じないように育てられてきた為、一般の子供が幼少期にするような遊びなどはルールは知ってても殆んどしたことがないらしくその時はそういうものか程度だったので、聞いてみる事に。


「……あ、ぁああの……」

「どうしました?賀集君」

「いえ、その……。み、皆さんは、鬼ごっこ……した事あり……ます、か?」

「オレはないなー」


声をかければ遠野が答える。
遠野君はやった事ない組なんだ……、そう思って聞いていれば紀野と巽と山内は初等部に通う前に遊んだ事があるらしく、綾小路と風紀副委員長はルールは知っていても遊んだ事はないと答える。
大半の生徒がそんなもんだろ、と岩代が言うから当日改めてルールの説明をした方がいいのかもしれないと、仕事が増えた。


「鬼ごっこのオニって普通は一人なんでしょ?」

「副委員長の言う通り、普通だったらな。オニにタッチされりゃ、次はそいつがオニになる」

「でもそれだとこの大人数では難しいですよね。暇になる人も出てきますし」

「てか誰が今オニなのかとかわかんなくならなーい?」

「「「「……うーん……」」」」


問題は山積みだった。確かに生徒全員で鬼ごっこって規模が大きすぎてオニ一人とかかわいそうだ。
通常の鬼ごっこのルールじゃ難しいのは明白だ。
その後小虎たちはどうにかこうにかしてルールを作っていったのだった。


2015/4/20.



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