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『小虎の恋模様』
6


無事に挨拶を済まし、片付けも苦労せずに小虎たちもそれぞれ教室に戻る事になった。
戻る前に岩代から、放課後集まる様に言われた。
恐らく事前に少し聞かされていた新入生歓迎会の話を進めるのだろう。
新入生歓迎会は毎年行われ、三種類の行事を一年ずつローテーションで行われるらしく、去年小虎達が一年生の時は有名な劇団による舞台だった。
お金かかってるなぁ〜、と最初は若干呆れていた小虎だが、いざ演目が始まれば終始釘付けでとても楽しい一日となった。
今年はローテーションで生徒達でのゲームになっている。
因みに来年はまたお金のかかる事をやるらしく、それはそれで楽しみだったり。
兎に角、今年の新歓ではどんなゲームをするかのアンケートを春休み中に新入生達に取り、その集計発表を本日行う予定だ。
教室に戻れば去年とほぼ変わらないクラスメート達がザワザワと談笑していた。
そんな中、一人の生徒が小虎に声をかける。


「おっ、小虎〜!!お疲れさん」

「草間君、ありがとう」


そう言いながら小虎は自分の席に着き、後ろを振り返る。
出席番号順に並んでいる為、彼―――草間 奏太(クサマ ソウタ)は小虎の後ろの席で、草間は初等部からの持ち上がりの生徒だ。
中学二年の時に学園の外で何かやらかしてしまったらしく、一時期E組に移っていたが勉強とか頑張ったおかげで高等部ではD組に戻れたのだ。
小虎とは去年から同じクラスで、しかも寮も同室で外部生の小虎は何かとお世話になり、それなりに一緒にいる時間が長い為、彼とは普通に話せる程の仲にまでなった。
因みに何をやらかしたのか聞きたいところだが、面倒見の良い彼は見た目によらず喧嘩が強いという噂を耳にしてから、知ってはいけないと当時小虎の中で警報が鳴り響いた為、今も知らないでいる……命大事。


「なぁ、今日って午前授業だからもう終わるじゃん?昼飯どうするよ」

「ボク生徒会の集まりがあって。購買で買うつもりなんだけど」

「そっか。大変だなぁ〜、生徒会長さんは」

「うぅ……生徒会長って呼ばないでよ……」

「いやオレが言わなくても他の奴等が言うから変わんねぇぞ?」

「……目立つ……」

「今更だな。まぁ、なんだ。慣れろ」


あはははっ、と豪快に笑いながら草間は小虎の背中を叩く。
痛いよ草間君……、と小虎は心の中で訴えた時、チャイムが鳴りHRが始まろうとしていた。




HRが終わり小虎は草間と食堂へ向かい、草間はそのまま食堂内へ、小虎は購買でパンを買って生徒会室へ向かう。
教室とも食堂とも距離のある生徒会室へ向かう途中ですれ違う生徒達は疎らになり、全く誰とも会わなくなる頃、目的の教室前に辿り着き、一応ノックをして入る。
生徒会室は一般生徒が無暗に出入り出来ない様に鍵がかかっていて、役員に与えられた鍵以外は顧問の持つ鍵のみでしか開けられない。
だから特別ノックをする必要はないのだけれども、なんというか"ノックしなきゃいけない"という雰囲気のある部屋だから自然としてしまう。
誰かもう来てるかな?、扉を開けて覗けばそこには紀野と巽がいた。


「会長君じゃん」

「ど、……うも……」

「早いね。お昼どうしたの?」

「あのっ、ご飯……買って、きまして……」


ガサリと手に持つ袋を見せれば二人は納得した。
音を響かせない様に気を付けながら扉を閉めて一番奥の会長席に鞄と袋を置く。
一番奥の席は椅子はふかふかで机も特別大きく、どうどうたるその見栄えに威圧感を感じ、座り心地は良いのに居心地はとっても悪い……、と座る度に思う小虎は買ってきたパンをもそもそと咀嚼し始める。
そういえば紀野君や巽君はお昼食べたのかな?、そう思って二人を見れば二人はまだ何か話をしている。
仲の良さそうな二人を見て羨ましい気持ちになり、食べてるメロンパンの甘さが切なく感じた。


「……なんか会長君見てたら腹減ってきた」

「むぐ……っ、お、お昼、食べてない……の?」

「会議終わってからで良いかと思って。オレもなんか買ってくっかなー。薊なんか食う?」

「あー……じゃあ、コーヒー買ってきて」

「いや飯は?」

「あとで食うよ」

あっそ、そう言って巽は生徒会室を出て行った。


(さっき紀野君の事名前で呼んでた?名前かぁ……、お花の名前だけど、格好良いし似合ってて良いな。ボクなんて『"小"虎ってお前に超合ってんじゃん!!』なんて笑われるだけだし……反論出来ないし……)


もそりとメロンパンに噛り付けば、ふと紀野と小虎は目が合った。
今、生徒会室には小虎と紀野しかいない。
そう意識したら顔に熱が一気に籠る。


「賀集、どうかした?」

「ううん?!べ、べべ別に!!……なな、なんでも!!」

「そう?」

「うん!!そうそう!!」


心配そうに見る紀野に申し訳なく感じ、小虎は夢中でメロンパンを食べる。
もっと普通にお喋り出来れば良いのになぁ……、とショゲていれば、ふと頭上に影が落ちた。
なんだろうと顔を上げれば何時の間にか紀野が机を挟んで目の前に来ていた。


(はひ……ッ?!!!)

「本当に大丈夫?顔赤いけど……」

「だ、だだ大丈夫ですっ!!問題ないですっ!!」

「うん?なら良いけど……なんで敬語なの?」


クスクスと目の前でキラキラした笑みを向けられてしまった。
緊張の余りつい敬語になっちゃうのは仕方がないよ……!!近いよー……紀野君近いよー!!、と小虎は一人パニックになる。
暫く無言が続いたけど、紀野は元の位置に戻る様子がなく、その場に留まる。


「ね、賀集」

「は、はいっ……?」

「それ、美味しい?」


それ、と指したのは小虎が今食べているメロンパン。
さっき紀野と巽は昼食をまだ取っていないと言っていた。
今なら巽に連絡をすれば間に合うかもしれない、そう思って小虎は感想を述べた。


「う、うん。美味しいよ……。クリーム……入ってて」

「甘そうだね。オレも食べたいな」

「今、なら巽君に頼めば……」


間に合うんじゃないかな?、と続けようとした小虎だが、紀野がメロンパンを持つ小虎の手を掴み、そのままグイッ、と引っ張る。
え?何?なんだろう?、そう思った瞬間、紀野はメロンパンに一口噛り付いた。
その動作が随分ゆっくりに見えて、小虎は何が起きたのか頭が追い付かずジッ、と見つめてしまう。
小虎の手を掴んだまま一口分のパンを紀野は目を閉じてそのまま味わうように咀嚼してコクリと喉を揺らす。
あ、食べ終わった……、見届ければ紀野がゆっくり瞼を上げてまた至近距離で目が合う。


「ん、ごちそうさま。甘くて美味しいね」


口元に付いた食べかすを空いている指で拭い取りながら、小虎に告げる紀野。
そこで紀野が小虎の食べかけのメロンパンを食べたんだという状況を小虎は今になってやっと理解した。
理解したと同時にぶわわっ、と一気に顔に熱が集まる。


(ぅわわわわぁーーーっ!!た、たた食べっ!!たべ……)

「あ、間接キスだね」


目の前で、ふわりと照れたように微笑みながら言う紀野の発言に小虎の思考回路はショート寸前だった。


(某有名アニメの歌詞みたいな事って本当にあるんだ……心臓も止まるかと思った……)


その後小虎はメロンパンを食べても良いのか悩みながらコッソリ食べたのだった。


2015/4/20.



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