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『小虎の恋模様』
3 Side 巽


役員挨拶中、聞いてんのか聞いてないのか別にどうでもいいが兎に角うるさい。
少しは静かに聞けねぇのかこいつらは……、そう呆れながら溜め息をつく。
これなら昨日の始業式で挨拶した時のがまだマシだったな……、次は生徒会役員の挨拶だし。
簡単に予測出来るこれからの事にうんざりする。
風紀委員会とは違い、まず顧問の赤みのあるオレンジ頭をワックスで整えた、見た目ホストっぽい岩代サンが挨拶して、書記の綾小路サンが一歩前に出て話出す。
落ち着いた話し方で聞きやすい挨拶だった。


「会計の遠野 八重でぇす。可愛い子も格好いい子も大好きなんで、仲良〜くしてね★」


キャピッ、なんて本当に星が飛んでそうなウインクをする遠野に、どちらかといえば低い声が響く。
今期の"抱きたい人No.1"だから当然といえば当然か。
次に隣にいる薊が一歩出る。


「紀野 薊です。今年度の生徒会副会長を務めさせて頂きます」

「え?」

「……え……?」

「「「「ええええーー?!!!」」」」


挨拶しただけでこの反応。
変わんねぇけど、うるさくてしょうがねぇ。
そりゃ周りの奴等は薊なら絶対に生徒会長だと思っていただろうからしかたないとは思う。
ザワザワ落ち着きを見せない講堂内に一礼して下がる。
その際に小声で、うるせぇ、と言えば薊には聞こえたようで、オレのせいじゃない、と興味なさそうに返された。
役員顧問ではない教師陣が静かにするように声を張り、なんとか落ち着かせた。
それでもボソボソは聞こえるが。


「……じゃあ、会長様は?」


誰かがポソリと呟く。
その言葉に新入生たちは、そういえば……、と生徒会役員に目を向ける。
オレも隣をチラリと見れば、オレと薊の影に隠れてるソイツがいた。
一言でソイツの今を表せば"オロオロしている"だ。
大丈夫かよ……顔めっちゃ青ざめてるけど。
何時の間にか岩代サンがソイツの後ろに来て、お前の番だぞ、と背中を押す。
ちょっと強く押されたらしく、そのまま一歩前に出る。
ソイツが出て来た事で講堂内はシーン……、と静かになった。
目の前のソイツは逆に落ち着きを見せないが意を決したのかバッ、と顔を上げた。


「あ、ああああのっ!!……こ、今年度の……せ、せせ生徒、会長に……なりました……賀集 小虎……です……」



語尾になるに連れて小声になる新しい生徒会長は肩を落とし、俯いてしまった。
本当に大丈夫かよ……そう思ってチラリと薊を見れば、奴は口元を押さえて肩を震わせている。
……こいつ……どうしようもねぇな。


「この人が会長……?」

「すげぇ普通」

「でもちょっと可愛いかも」

「オレはイケる」


おいおい……小声とはいえ不審な台詞が丸聞こえだぞ……。
ほら、横で薊がバレない程度に舌打ちしてんぞ……器用だな。


「あのっ!!う、うう上手く、お話とか、め、目立つの苦手……ですが!!がが頑張りますッ」


表情こそ見えないが声が震えている事から恐らく涙目なんだろう。
新入生たちは、じゃあ何故引き受けたし、とでも言いたそうな表情をしていた。


「賀集!!そーゆうのは言わなくていいんだって昨日も言ったでしょー?!」

「うぁっ……ご、ごめん遠野君!!」


遠野の指摘通り、昨日の始業式でも賀集は同じ事を言い、トップがそんなんでどうすんだ!!、と遠野から注意を受けたばかりだった。
二人のやり取りを見つつ、視界の隅では俯き顔を片手で覆い肩を揺らす薊は、見えないようにオレの背中側の制服をグッグッ、と下に引っ張ってくる。


「……見て、紀野様が呆れて震えていらっしゃる……!!」

「怒っていらっしゃるんだ……!!」


見当違いな新入生の小声に呆れた視線を流す。
甘いな新入生ども……。こいつは今、呆れている訳でも怒っている訳でもない。
会長君の発言や仕草……つーか会長君自身に萌えているだけだ。
現に隣から小声で、やべぇ超可愛い……ッ、って言ってるし。
つかそろそろ肩痛ぇからグイグイ引っ張んのやめね?


2015/4/17.



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