『小虎の恋模様』 1 ―――春。 綺麗な青空が広がり、敷地内に植えられた桜の木々もほんのり色付き、ちらほらと小さく開花してはいるが、満開になるのはまだ先だろう。 天候に恵まれた本日、蓮見学園は入学式が行われる。 エスカレーター式で上がって来た生徒や、外部入試を受け、見事合格を手にした外部生で校舎の周りは賑わっていた。 式の行われる大きな講堂に行く前に、新入生の証である花を胸元に飾られ、嬉々として歩みを進める。 「聞いた?本年度の生徒会長は紀野様らしいよ」 「本当?ボク初等部からの憧れだったんだぁ〜」 「クールだし、格好良いし、頭も良いし、スポーツも出来て完璧な方だよね!!」 「今まで何人からも告白されてるけど、今も恋人いないらしいぜ?」 「アタックしちゃおうかな?!駄目でも親衛隊には絶対入る!!」 あちらこちらでの話題は専ら新しい生徒会長の事だった。 持ち上がりの生徒からすれば紀野が生徒会役員に選ばれる=生徒会長になる、という考えは当たり前だった。 そんな事を考えて歩みを止めて話しをしていれば、腕章を着けた一人の生徒がその輪に声をかける。 「そこの新入生、早く講堂に行け。遅れんぞー」 「……っ、はい!!」 声をかけた人物と腕章を見て慌てて講堂へ向かう新入生たちは、小走りしながらキャッキャとはしゃいでいた。 遠くなる会話から、巽様は風紀委員長だったねー、と聞こえた。 蓮見学園では、生徒会役員と風紀委員会は印として職務中は腕章を着ける事になっている。 生徒会役員は赤の腕章、風紀委員会は緑の腕章で、それぞれ"生徒会"と"風紀委員"と文字が書かれており、更に会長と風紀委員長の腕章の上下には黄色で縁取られたデザインをしている。 先程声をかけた人物の腕章には黄色で縁取りされた緑の腕章、つまり風紀委員長だった。 風紀委員長に選ばれた彼、巽 蓮汰郎(タツミ レンタロウ)は、アッシュグレイの髪に見た目は不良に見えるがその人柄の良さに、役員投票で"抱かれたい人No.1"と紀野と同率を獲得した人物。 因みに紀野とは初等部に入る前からの幼馴染だったりする。 「……ったく、あいつどこに……っと」 辺りを見渡して目的の人物を探していれば、少し先にその人物はいた。 若干うんざりした様子のその人物を見て、……またか、と呟く。 「新学期早々、相変わらずのモテっぷりだな?薊クンは」 「……なんだ蓮汰郎か。しかたないだろ、後回しにしたらしたで後々面倒くさい事になるし」 「因みになんて返してんだ?」 「"気持ちは嬉しいけど、君と付き合う事よりももっと大事な事があるから君にかまけてる暇はない"」 「……ハッキリ言うのな、お前」 「事実だからね」 ニヤリと不敵な笑みを作る紀野に、変わんねぇな、と巽は呆れた様に言う。 「だったらさっさとオトしゃいいじゃねぇか」 「時間かけて染める派なの、オレは。あと見てて面白いし可愛いじゃないか」 「……誰かに先越されても知らねぇぞ?」 「そしたらそいつ潰すから平気」 サラリとなんて事はないといった表情で告げる隣の幼馴染みを見て、本当変わんねぇ!!、と巽は紀野の背中をバンバン叩いた。 2015/4/15. [次へ#] [戻る] |