『小虎の恋模様』 4 一緒に帰ったあの日から―――紀野君に恋心を抱いてからのボクは、紀野君を見かける度にその姿を目で追った。 なんとも一昔前の少女漫画みたいな恋のオチ方ではあったが、でも恐らくそんなオチ方をするのは、この学園ではボクだけではない筈。 姿を見かけて見つめるだけの最大の理由は、紀野君と教室が離れているから。 紀野君はボクと違って頭も良いからA組で、そんなに頭の良くないボクはD組……各学年は5クラスしかなく、この説明だけでお分かり頂けるだろう。 体育の授業で一緒になる事もないし、移動教室に向かう時もわざわざA組に近い階段を利用せずともE組の直ぐ横の階段を使う為、会う事は殆どない。 窓際の席だからA組の体育を教室からコッソリ見たり、移動教室の帰りにA組の人達の移動中を見たり、学食で生徒に囲まれてたり、遠巻きに見つめられている所にコッソリ混ざったり……とそんな日々だ。 そのまま特に何も起こらず、夏休みを迎え、暑い空気に身体のダルさを感じつつ、そういえば話した事もなかったのになんでボクの名前知ってたんだろう……、と疑問に思った。 夏休みが開けても蒸し暑さは健在で、教室中その暑さに参っていた。 夏休みが終われば次は文化祭が控えており、放課後は文化祭の準備に追われている。 ボクもあわあわと慌てながら作業を手伝い、多分足手まといにはなっていない……と思いたい……。 因みにボクのクラスはお化け屋敷だ。 必要な小道具やらセットやら衣装やらなんやらを決めて、皆がそれぞれの作業に取り掛かる中、ボクはお使い中。 暗幕の数と使用許可の申請のプリントを生徒会顧問の先生に渡しに行ってる最中だ。 生徒会室に向かうべきか、職員室に行くべきかを考えていたらクラスの人に、今ならA組にまだいるらしいから近くて良かったな、と言われた。 生徒会顧問の先生はA組の担任もしてるんだって……なんてこった……!! ……そんな訳でボクは3クラス先のA組に足取り重く、緊張しながら向かっているのだった。 ただプリント渡すだけ、渡すだけ……簡単な事、簡単……かんた…… (教室の奥にいらっしゃる……) 辿り着いてコッソリ覗けば、顧問の先生は教室奥でA組の生徒さんたちと一緒に話をしながら様子を伺っていた。 入り口近くなら直ぐに帰れるのに……中入ったら確実に目立つ……。 でも渡さないと……、と教室の入り口で静かに葛藤していれば、A組の生徒さんがボクに気付き、用件を聞かれた。 焦りながらプリントの事を話せば、先生を呼んでくれた……良い人だ。 まぁでも大声で、せんせぇーお客ー!!、なんて言うものだから注目は浴びた……意味がない。 その声に振り向いた生徒の中に紀野君を見付けて思わず肩が跳ねた。 久し振りにまともに見る紀野君は相変わらずクールな表情で……と思ったらほんの少し驚いた顔をして、そして直ぐに目元が優しくなった……気がする。 2015/3/29. [*前へ][次へ#] [戻る] |