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■短編■
4


「あ"ッ!!いたテメェ久瀬この野郎!!」

「……?」


あのあとオレは急いで久瀬の姿を探した。
キャンパス内を走り回って探す事、三十分。
漸く見付けた久瀬は、講義を受ける教室のある本館ではなく、図書室や特別室等がある別館の最上階に続く階段に座り込んで本を読んでいた。
確かにここまで来れば人気は殆んどなく、静かで本を読むには丁度いい場所ではあるが、オレはここに来た事もなければこんな穴場があるなんて事も知らなかった。
だから見付け出すのにちょっと時間がかかったけど、見付かってよかった。


「どうかしたの?そんなに慌てて」

「どうかしたの?じゃねぇよ!!お前なんで昨日……っ、ゲホ、ゴホッ!!」


そこまで言ってオレは盛大に噎せた。
仕方がない。ここまで走って来たのだから。息も切れ切れの状態で大声で叫べばそりゃ噎せるわな。
身体を丸めて噎せていれば、背中を擦る手の温もりに気付いた。久瀬の手だ。


「落ち着いて。大丈夫だから」


そう落ち着いた声音で言う久瀬は優しくオレの背中を擦ってくれている。
息を整えながら久瀬を見れば、無表情で擦っているものだとばかり思っていたが、どうやらそれは間違っていたようで、久瀬の表情は本気でオレを心配しているものだった。
なんでこいつこんな顔してんだ?ただ噎せてるってだけなのに。心配し過ぎじゃね?
落ち着いてきて大丈夫だと久瀬の手を軽く払えば、久瀬がほっと安心した気配を感じた。


「お前、心配し過ぎじゃね?」

「そんな事はない。心配するよ普通」

「そうか?……って、違う!!オレは世間話をしに来たんじゃない!!なんで昨日お前も途中で帰ってんだよ!?」

「……なんでそれを…」

「河口さんから聞いた。オレの帰った直後に帰ったんだってな。だからあのあとオレと久瀬がこっそり会ってたんじゃないかって、あらぬ誤解を受けたんだぞ?!」


河口さんから聞いた話では、オレが帰ったあと直ぐに久瀬も帰った為、タイミング的に二人で計画して抜けたんじゃないのかっていう恐ろしい誤解だった。
全くそんなんじゃないって事をオレは河口さんに説明して納得してもらった。
久瀬が何故誤解されるようなタイミングで帰ったのかとか、女の子が誰一人として告白出来なくてそれがオレのせいになっているって話も聞いたっていう事とか、聞きたい事と文句を言う為にオレはここに来た。


「どうしてくれんだよ!!そもそもオレお前と喋ったのだって昨日が初めてだったんだぞ?!女子の告白が出来なかったのオレのせいってなんなの?!なんで?!」

「うん。確かに昨日、初めて喋ったね。名前と顔は前から知ってたけど」

「お前なんでそんな冷静……ん?お前、オレの名前知ってたの?お互い昨日初めて喋ったのに?」

「昨日呼んだじゃないか。知ってたよ。入学式の時から」

「…………な、なんで?」


なんで入学式の時から知ってるんだ?
入学式なんてまだ誰とも仲良くなってないし、名前を呼ばれる事もなかったから、知ったとしても名簿を見なきゃだろうけど、だからってそれでオレが佳賀里 明人ってわかる筈がない。
入学して以降も久瀬は兎も角、オレなんてそんな目立つ容姿をしている訳でも、久瀬みたいに顔が恐ろしく整っている訳でも、大学内で騒がれるような存在でもないのに。
確かに三年も経てばどこかで名前を聞く事はあっても、仲良くもない人物の名前をわざわざ覚えておくという事はしないだろう。
じゃあ、なんで久瀬はオレの名前を知っていたんだ?
疑問しか浮かばないオレは久瀬を静かに見つめる。
そうすれば久瀬もオレを見つめ返す。
オレを見つめるその双眸はとても落ち着いた色合いで、じっと見つめられると身体が硬直して動きたくても鎖で縛られてしまったみたいにぴくりともしない。


「知りたい?」

「えっ……う、うん……知り、たい」


こてんと首を傾げながら訪ねてくる久瀬に、一瞬心臓がどきりと軋んだ。
何に対して脈打ったのかわからないが、知りたいというのは事実なのでこくりと頷いてみせれば、久瀬はオレを見つめる双眸を細め、にやりと口角を上げた。


「好きだからだよ、佳賀里が」

「……え……」


恐ろしく整った目の前の顔は、嬉しそうに、照れくさそうに頬を若干赤くさせながら微笑んでそう言った。
いまいち発せられた言葉の意味を理解出来ずにいれば、くすりと笑われてしまった。


「え……え?いや、ちょっと待って。え?好きって……ンッ、?」


混乱した頭のまま再度尋ねるが、それは最後まで言葉に出来なかった。
口を塞がれてしまったからだ。勿論、久瀬の口で。
数秒遅れて現状を理解したオレは、慌てて離れようとしたが、久瀬の右手がオレの首の後ろに添えられて、左手はオレの腰に回され、固定されてしまった。
そのまま口付けは続き、終いには深いものに変わり、薄く開かれた口内に久瀬の舌が入り込み、逃げるオレの舌を捕らえては何度も何度も角度を変えて絡ませてくる。
静かな空間にオレ達から発せられる水音と、オレの口から出る息を紡ぐ音だけが響く。
体勢的に上を向かされているオレの口端から飲み込み切れない唾液が零れる。





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