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■短編■
2


「……あ、」

「んー?」

「あの子超可愛い!!」


ふと横を見て目に入った女の子。
ふんわり広がる清涼感のある真っ白なワンピースに水色のカーディガンを羽織った、真っ黒で綺麗な長い髪。
まさにお嬢様ってタイプの子だった。すっげー可愛い!!


「オレ、あの子と仲良くなりたい!!」

(……出た、明人の惚れっぽさ)


目を輝かせながら話すオレに呆れたような視線を投げかける友人にオレは気付かなかった。
それからというもの、その子の名前を知らべてからタイミングを計って声をかけたりした。
何時もの手口だ。あ、手口って言うと悪い意味に聞こえそうだな……。
彼女は河口さんといって、話しかけてみるとお嬢様タイプでも明るくて会話も弾んで、親しみやすいタイプだった。
いい感じに親しくなった頃、河口さんと河口さんの友達数人とで今度遊びに行くという話があって「男友達もいるから佳賀里君もおいでよ」と笑顔で誘われた。
頷かない理由なんてなかった。


約束の日になって集合してみれば女の子四人、オレを入れて男四人の数的には合コンみたいだった。
でも誰かが一人になるよりはマシだと思ったが、何故か男メンバーの中に久瀬の姿があった事には解せない。
いや、河口さんのお友達同士の集まりって言っていたから久瀬は河口さん達の内の誰かの友達なのだろう。
オレは別に久瀬と仲良くするつもりはない。
オレが今日来たのは河口さんに告白をして恋人をゲットする為だ!!
オレはオレの目的に集中して決行すればいいだけ。
さぁ!!今日という日を思う存分楽しみ、そして最高に幸せな日にするのだ!!



――と、思っていたのに……。


(……女子全員が久瀬に夢中になっとる……)


そう。丁度お昼時でご飯を食べようという事になり、ファミレスに来ているのだ。
そこで席をどう分けるかで女の子の間で少し揉めている。
揉める理由は簡単で、誰が久瀬と同じテーブルに着いて、誰が久瀬の隣に座って、誰が久瀬の向かい側に座るかで揉めているのだ。
そんな揉め事に数分かかっているので、関係のないオレ含めた男子軍は「もう先食ってていい?」な空気になっている。
オレだって出来れば河口さんの隣か向かいに座って同じテーブルで食べたいって思うから女の子の気持ちもわかるよ?
でもさ、それでもさ、残された男三人からしたらちょっと嫌な気分になる訳で。
もうどうでもいいやと店員に案内された内の一つの席にオレは勝手に座る。
女の子と久瀬以外はどっちの席選んだって構わないんだから大丈夫だろう。
それを見た残りの男子二人もそれぞれ席へ着こうと動き出す。
一人はオレとは別の席へ座り、もう一人がオレと同じ席に着こうとしたその時。
一瞬早く久瀬が動き出してオレの目の前の席に座りだした。
それをオレや座ろうとしていた男子、そして女の子四人がぽかんとしながら見ていた。
遅れた男子は「えーっと……」と悩みながらも、もう一つの席の方へ移動して腰を落ち着かせた。
綺麗に男子は二人ずつに分かれて座る事が出来たが、まさか久瀬と同じ席になるとは思ってもいなかったオレは、このあとの女の子の展開を予測して溜め息を零した。
せめて河口さんがこっちの席を獲得しますように……。


「疲れた?」

「あー。いや別に……えっ?」


予想通り残りの空いている席を誰が座るかを決めている女の子達をぼうっとしながら見ていれば、誰かに話しかけられ、てきとうに返事をして途中で気付く。
かけられた声はオレの向かい側から聞こえた。
つまり、声をかけてきたのは久瀬しかいない。
びっくりして久瀬の方へ向き直せば久瀬は真剣な表情でオレを見ていた。
その表情に、真っ直ぐ向けてくる瞳に、まるで捕まえられたかのように視線を外す事も身体を動かす事も出来ない。
なんで久瀬がそんな顔でオレを見ているのかわからなかったけど、よくわからない緊張からこくりと唾を飲む。
それも仕方がない事で、今の短い会話が久瀬との初めての会話だったから。
視線を外さずじっとオレを見る久瀬に、オレの方が耐え切れなくなって視線だけさっと外す。


「あー……、まぁ。でもそんな疲れてはないかな?」

「そうか。佳賀里 何食べる?」

「え?あー……んと、グラタンにしようかな?」

「それだけで足りる?意外と小食だったり?」

「や。多分、歩きながらなんか食ったりもすんだろ。さっき女子がクレープ食べるって言ってたし」

「言ってた?」

「言ってたよ。つか、お前に向けて話してたから聞いてただろ」

「聞いてない」


さらりとメニューを見ながら告げる久瀬にオレはイラァっときて睨み付けていた。
睨んでも相手はメニュー見てて気付いてませんけどね!!
集まって早々に女の子独占状態になっていたくせして女の子との会話を聞かないとか何様なの?!腹立つ!!
オレなんて河口さんとの会話ほんの少しだけしか出来てねーんだぞ?!
しかも今日遊んでわかったのは、またオレは失恋したって事と、その原因がまた目の前の久瀬だっていう事。
もー、何時になったらオレの恋は実るのさ!!
イライラしてテーブルに突っ伏していれば、女の子の間での揉め事は終わったらしく、オレのいる席に河口さんは来れなかったようだ。
もう一つの席を見れば、ぷんぷん怒っている河口さんの姿があり、失恋する位なら席一緒になってもいいじゃないかと肩を落とす。
隣に座った女の子も久瀬の隣に座った女の子も、どうせ目当ては久瀬なんだからオレ暇だなと、そう思いながら改めてメニューに視線を落とそうとしたが、その前に久瀬の表情を見て固まった。
さっきまで真剣な表情で、普段も殆んど無表情しか見た事がなかった久瀬が、ほんの少しだけ嬉しそうに、安心したように口角を上げていた。
それに気付いているのか気付いていないのか、女の子達は頻りに久瀬に話しかけてはいるが、久瀬がそれに答える事はなかった。





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あきゅろす。
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