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■短編■
2016/12/10〜【7】


【小虎の恋模様 7】


各自部屋を移動したあと、紀野と巽は役員の仕事に戻り、小虎と草間は各々の部屋で部屋主が帰って来るのを待った。
そんな二人の、先ずは小虎から見てみよう。


「そういえば……初めて紀野君のお部屋お邪魔したなぁ……」


「時間潰しにテレビ観てて良いよ」と言われたが、リビングスペースのソファーから全く動けずにいた。
初めて入った片想いの相手の部屋に、緊張しない訳がない。
座っているソファーだって、恐る恐る座った様なものだ。下手に歩き回れない。


「綺麗なお部屋……」


紀野の部屋のリビングスペースは色調を揃えたインテリア家具で纏められていて、ちょっとした小物類も雰囲気を壊さず、上手く溶け込んでいる。
役員専用の部屋の構造は、どの部屋も変わらないらしいが、住む人間が違うだけで雰囲気はこうも変わるのかと小虎は感心した。
そうこうしていれば時間はあっという間に過ぎていき、部屋主の紀野が帰ってきた。


「あっ、お、おか、お帰りなさい……っ」

「……うん、ただいま。……良いね、これ」

「?な、何が?」

「"お帰り"って言って貰えるの」


「同棲してるみたい」と微笑みながら言う紀野に、ボンと顔を真っ赤にする小虎。
確かに今は紀野の部屋にお邪魔しているし、部屋主が帰ってきたのだから、お帰り位言うだろう。
それを同級生という距離ではなく、もっと親しく、近しい間柄の言い方をされて、どう受け止めるべきか困惑する小虎。


(……えっと……んと……う"ぅ……)

(しかも今、猫耳猫尻尾だし……。あー、可愛い)


双方の考えている内容がすれ違っているのは仕方ない。
「晩ご飯にしよう」そう切り出した紀野に、小虎は頷いてテーブルに並べられた食事に目を向けた。
紀野が持ってきた食事は、ドリアと和風ソースのパスタだった。
「何故二つも?」と疑問に思った小虎は小さく首を傾げ、それに紀野がどちらが良いかを尋ねながら答えた。


「オレが賀集とご飯食べたくてね。だから片方はオレの分」

「そ、そうなんだ……」


「じゃあ、こっち……」とドリアを選んだ小虎の元にドリアを差し出す紀野。
もし紀野が先に食堂で食事を済ましてきて、一人で食事をするという事に気まずいと思っていた小虎にとっては有り難い話だった。
それが紀野の気遣いなのか、ただの気まぐれなのかは小虎には検討も付かないが、もしそれが紀野の優しさからの行動ならばと思うと自然、頬が緩んでしまう。
口元を引き締めて「いただきます」と二人で手を合わせ、その日の晩ご飯を迎えた。








「あっ、ああああの!!ひ、一人でだ、だだ大丈夫ですからッ!!」

「でも猫って水が苦手でしょ?草間みたいに賀集の身体も少し変わってるかもしれないし……」

「で、ででも、流石に……お、おおお風呂はちょっと……!!」


現在、二人が攻防を繰り広げているのは、脱衣所。
何故こんな攻防戦が繰り広げられているのかというと、先程の食事の際に小虎は一口めのドリアで舌を軽く火傷した。
というのも、どうやら何時の間にか小虎の舌は猫舌になっていた様で、気付かず十分に冷まさずに口に入れてしまったから。
草間も今朝食べた玉ねぎで若干気分を悪くした例もあった訳で、先に風呂に入る様に勧めた紀野だったが、それらの様子から「この状態ではもしかしたら水が苦手になっているのでは?」と思い至り、入浴の手伝いを申し出たのが始まりだった。
例え身体に変化が起きていたとしても、小虎はこの申し出に頷く訳にはいかない。
全力で断り続けて、それに渋々了承した紀野にほっと息を吐いた。


(だって一緒にお風呂とか……!!そんなの恥ずかしくて無理だよぉ!!)

(……流石に風呂は無理か。あーぁ……、残念)


リビングに戻りながら紀野は溜め息を吐き、肩を竦めた。
因みに小虎は、やはり水が少し苦手になっている様で、びくびくしながら入ったとか。



つづく。

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2016/12/10〜2017/1/7.




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