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■短編■
2016/11/9〜【6】


【小虎の恋模様 6】


「朝食が遅かったからこれ、小腹が空いたら食べてね。放課後になったらまた一度来て移動するから」


「とりあえず草間もここにいろよ」と軽食用にラップのかけられたサンドイッチをテーブルへと置きながら、紀野は言った。
先程、紀野が言った「こうしよう」とは、土日の間の食事に関して、小虎が紀野の部屋で、草間が巽の部屋で摂るという提案だった。
何故そうなったかというと、草間は二人部屋の為、同室者に見られるのを避ける為と、小虎に関しては生徒会役員達には「体調を崩してゆっくり休む」と伝え接触を避け、その間の食事面で紀野が小虎の部屋に出入りするのを目撃されない為、という訳だ。
まだ学園では午後の授業が残っている為、その間に草間は土日の間用の着替え等を取りに一度部屋へ戻った。
着替えを取り、改めて小虎の部屋で時間を潰す。


「……てか、なんでオレは巽の部屋で寝泊まりせにゃならんのだ。良いじゃん、小虎の部屋でもさぁ。飯こっそり持ってくりゃ良いじゃん」

「……心臓出る……」

「お前はお前で死活問題だな。……あ、同室の奴に泊まる事メールしとかねぇと」

「巽君の部屋に泊まるって言うの?」

「言わねぇよ……。説明出来ないこの状況で更に誤解されんだろ……。普通にここに泊まるって送んだよ」


「そもそもオレも巽も普段滅多に話さねぇのに泊まるとか言ったら大騒ぎだろ……」そうげんなりとした顔色で呟く草間に、それもそうかと納得する小虎。
草間が小虎と去年からの付き合いで、一緒にいる事も周知されている事だが、風紀委員長の巽と草間の接点はそうそうにない。
中学の時にやんちゃしていた草間も、高校に上がってからは、落ち着きを見せている為、尚更だ。
そんな二人が片方の部屋に連日泊まる等と知られた時には、この学園の事だ。
絶対にあらぬ噂が一気に広まり、"そういう間柄"と誤認されてしまうに決まっている。
だから同室者に嘘のメールを送るのだが、それを嘘ではなく事実にしたって良いじゃないかとぼやくが、この提案を出した時の紀野の表情を見る限り、小虎の部屋に草間が泊まるという選択肢は一切ない、という有無を言わせない迫力―――笑顔ではあったが―――に、草間は仕方なしに頷くしかなかった。




暇潰しにテレビを観たり、課題に手をつけたり、何気ない会話等で時間を潰していれば、放課後の時間帯になっていた。
その時、小虎の部屋にチャイム音が響き、フードを被った小虎が恐る恐る玄関を開ければ、ドアの外には紀野と巽の姿が。


「お待たせ。じゃあ、二人とも荷物持って移動しよう」

「う、うん……」

「……おー……」


奥から自分と小虎の荷物を持ってきた草間から小虎が荷物を受け取ったのを見届けた紀野は、こくりと一つ頷き、小虎は紀野の部屋に、草間は巽の部屋へと移動した。



つづく。

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2016/11/9〜2016/12/10.




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あきゅろす。
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