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■短編■
5


「でも、オレ達、一応結ばれたんだよな?」

「既に結ばれてたのを改めたって感じだけどな」

「……じゃあ、これからずっと傍にいられるのか?」

「周りの誰がなんと言おうと織姫の傍にいるよ」


こつんと額と額をくっ付けて星川が言う。
明日のオレは彦星の事を覚えていられるか不安は拭えないが「傍にいる」その言葉はオレの心に沁み渡り、また涙が浮かぶ。
涙腺ゆるゆるなオレの涙を苦笑交じりに優しく拭ってくれる彦星を、星川をオレは明日も覚えていたい。




それからと言うものの、積もる話もあるという事で二人して学校を休んで、ずっと星川の部屋で沢山話をしていたら、気付いたら夜になっていた。
実は、なんで地上に降りて人間として生き始めたのかを覚えていなかったオレだが、星川曰く『逢瀬を許されたとある時代の7月7日、その日だけ現れる天の川に架かる橋を渡ろうとして足を滑らせて川に落ち、そのまま地上に落ちて行った』らしい。
因みに彦星は、落ちた織姫を助けようと自分も川に飛び込んで、そのまま一緒に落ちたんだとか。
きっとその時のオレは我慢してやっと一年経って、やっと彦星に会える喜びで浮かれてたんだろうなぁ……。
そう思うと恥ずかしいし、オレを追って落ちた彦星に申し訳がなかった。追ってくれたのは嬉しいけどね。
そんな複雑な心境を紛らわそうと窓を開けて外を眺めたら。


「……っ、わ!!星川!!こっち、見て!!」

「どうした?」

「ほら、あれ!!」


外を、正確には空を指差して星川も見る様に誘導する。
指差したその先に広がるのは、数えきれない星々と、夜空に流れる一筋の天の川。
向こうにいた時は忌々しい川と認識でしかなかったけれど、こうして地上から見上げるその川は、言葉が出ない程綺麗で、神秘的だった。


「今思えば地上に降りてからオレ、天の川ってちゃんと見れた覚えないや」

「そういえばオレも」

「何時も雲で隠れてたりしててさ。でも、今日は星川と見れて良かった。最高の誕生日になったわ」

「織姫、今日が誕生日なのか。オレと一緒なんだな」

「えっ?!星川も今日なの?うわぁ!!何も祝えなくてごめん!!おめでとう!!」

「気にすんな。……つーか、最高の誕生日プレゼント貰ったから良いよ」


「何かあげたっけ?」と首を傾げるオレに、星川はくすりと微笑んでから言った。


「織姫に会えた事」

「!!……だったらオレも同じプレゼントだな」


「へへっ」と照れ笑いするオレと、嬉しそうに微笑む星川。
毎年来る誕生日は、オレにとっては喜ばしいものとは言えなかった。
でも今年は、今日は、良い誕生日になった。
肩を寄せ合いながら見上げた天の川も、心なしかオレ達を祝福してくれているみたいに見えた。
会いたいと心から願ったあなたに会えて、二人並んで見た天の川を、何時までも覚えていたい。
だからお願いします。明日も明後日もこの先ずっと、今日の事、愛しいあなたに会えた事、全部、忘れないようにしてください。
明日への不安を胸に抱きつつ、オレ達は7月7日に幕を閉じた。






―――翌日、7月8日の朝。
目が覚めたオレは暫くの間、頭が働かなかったが、はっとして勢い良く起き上がる。
隣を見て、星川の姿を確認して、じわじわと溢れてくる喜びをオレは小さく噛みしめた。
結果を述べると、オレは昨日の出来事を全て覚えていた。
目が覚めた星川にも確認を取れば、星川も覚えているとの事で、嬉しいあまり星川に抱き付いた。
星川はそれを余裕で受け止める。
昔からの願いが叶い、これからは二人で何時までも仲良く隣に並んで行ければいいと、そう心に誓った。




END.





【オマケ】


7月8日。二人で学校へ行けば、昨日の事もあってか、校内はオレ達の話題で持ちきりだった。
それに少し照れつつ一緒に教室に入れば、ありとあらゆる意味合いの視線を一気に浴びる。
そりゃ、この学校でイケメンと囃し立てられる星川といきなり恋人になったとなれば、仕方ないか。
暫くは続くだろうが、星川がいればオレは怖くない。


「やぁ、おはよう。昨日の朝ぶりだね」

「文月!!……おはよう」


昨日の朝、いろんな事があった中に文月からの告白を受けて、それを断ったという事実もある。
気まずい。気まずいが、文月は至って普通の態度に少し疑問を感じた。
それに気付いたのか、文月が徐に「あぁ」と話し出す。


「昨日のことなんだけど、あれ嘘だから気にしなくて良いよ」

「「……は?」」


あっけからんと述べる文月に、オレと星川がハモった。
え?こいつ、今なんつった?嘘っつった?


「オレだって今までもどかしかったんだよ?折角偶然を装って必然的に同じ学校に通わせたけど、お互いに昨日まで気付かないから、もう見ててもどかしかったよ。そういう風にしたのオレだけどさ」

「いや、ちょ……、何言って……?」

「文月、ちゃんと始めから説明しろ」

「だからぁ、何千年もかけてやっと二人が再会出来る時代になったから、オレが朝、笹竹に告白すれば絶対に星川は食い付くだろ?オレのささやかな優しさあっての昨日な訳よ」

「……なんで知って?お前、一体……」


オレ達が何千年もの年月を同じ魂で廻って愛しい人を探してる、なんて誰にも話した事もないのに、何故文月はその事情を知っているのだろうか。
オレと星川の表情からそれが伝わったのか、にやりと口元を上げた文月は、それはそれは良い笑顔で爆弾を投下したのだった。


「だってオレ、お前らを引き離した神様だもん」

「「……はぁっ?!」」

「二人して地上に落っこちるからさぁ、びっくりしたし、何千年も会えてなかったの、悪かったなーって気持ちも芽生えた結果、今回の巡り合わせに少し協力してやったんだよ?」


「感謝しろよな」なんて偉そうに言いながら文月は自分の席へと戻って行った。
突然のカミングアウトにオレも星川も暫く動けなかったが、オレ達を引き離した張本人だという怒りと、それでも昨日、会わせる為に力を貸してくれてたという事に感謝の気持ちでいっぱいで、オレ達はおかしくて笑ってしまった。


END.


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2016/7/10.

ネタが浮かんで衝動的に書き進めて曖昧な設定とかありますが、そこはゆるく納得して頂けますと幸いです;;
小ネタ等、何かしら浮かべばページを追加していくかもしれません多分(未定)



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