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■短編■
3


「え、えっと……?」

「笹竹って可愛いよね」

「はっ?!え、なに……」


「お前……大丈夫か?」という思いを込めて文月を見れば、くすくす笑う文月。
心なしか、周りの視線も若干刺々しいものに変わった気がする。
そんな文月や周りの視線を無視して味噌汁を啜った時、更に文月がとんでもない事を言ってきた。


「笹竹、オレと付き合わない?」

「ぶふぉっ!!……ッ、ゲホ!!ゴホ!!」


爆弾投下によりオレは味噌汁を噴いた。そりゃもう思いきり。
噎せていれば、近くの生徒が心配そうに雑巾とティッシュを渡してくれて、雑巾でテーブルを拭きつつ自分の口元をティッシュで拭った。
噴いたわりには文月の方にまで被害が出なくて良かった……じゃない!!


「お、おおおおまっ、何言って……!!」

「だから笹竹が好きなのでオレと付き合いませんか?」

「いやいやいや!!そもそも何故オレ?!」


文月とは、こうやって相席したり会話したりはする間柄ではあるが、だからと言って特に仲が良いという訳ではない。
この高校に入学して二ヶ月とちょっとの付き合いでしかないし、それにたまに挨拶交わして、たまに喋る程度だ。
しかし、だからと言ってなんでこんな人目の多い食堂で、しかも朝から告白してくるの?
周りの視線、気付いてる?メッチャ鋭くて痛いよ!?
彦星ではない相手からの告白をオレは受ける気は更々ない……つまりこの居心地の悪い状況の中で断らなければならないという事だ!!
なんてやりづらい!!気まずい!!逃げ場ない!!
どうしようと焦るオレをよそに、まるでこの状況を利用しているとでも言う様に余裕な表情でオレを見る文月。
計画通りって感じかよ、腹立つな。
いっその事、無言で立ち去るか……そう考えが過ぎった時、不意に耳に届いたのは新たな騒ぎ声。
それを認識した瞬間、突然ぐいっと腕を掴まれてがたりと立たされた。
一体なんなんだと驚いて腕の引かれる方へ視線を向けて息をのむ。


「悪いが、こいつはオレのだからお前は諦めろ」


新たなるざわめきの正体は、文月同様にこの学校でイケメンと騒がれている内の一人―――星川 天彦(ホシカワ アマヒコ)。
文月が他人に優しい、おおらかな性格の持ち主に対して、星川はクールな見た目に、人との慣れ合いをあまり好まない、そんな人だ。
冷たい様に見られがちだが「そこが魅力的なんだ!!」と彼に好意を寄せている誰かが言っていた。
いや、そんな事は今はどうでもいい。
どうでもいいんだ。


「……ひ、こぼし……?」


ぽつりと呟いたオレの声は小さなもので、周りの耳に届く事はなかったが、近くにいる星川には届いた様で、ちらりと視線を寄越される。
あんなに見つけ方に悩んでいたというのに、いざ本人を目の前にして、その人が彦星だという事にまさか一目でわかるとは。
勘違いという可能性を考えたが、どんなに星川を見ても、答えは変わらない。
変わらないからこそ、心臓がどきどきと騒ぎ出した。
あぁ、やっと……何千年経ってやっと、愛しいあなたに会えたんだな。
感動のあまり、涙が滲む。


「ひこb―――むぐっ」
「それは今は黙ってろ、織姫」

「!!」


お、おおお織姫って呼んだ!!呼んでくれた!!
というかオレが星川を"彦星"って呼ぼうとして止められたって事は、やっぱり星川が彦星なんだ。
うわぁぁあああああ!!感動しすぎて言葉にならない。


「ちょっと。いきなり割って入ってきて随分な事を言うね?星川」

「丁度お前らの様子が見えたからな」

「そもそも星川が笹竹の事好きだったなんて初耳なんだけど」

「そうだろうな。言った事ないし」


しれっと返す星川に、なんとも言い様のない嬉しさが込み上がってきた。
感動のあまり胸がきゅんきゅんしている。この点は女心の名残だろう。今のオレ、マジで乙女。
そんな時、不意に周りのざわめき声が耳に入ってはっとする。
そうだよ……ここ食堂で、文月の登場で既に視線いっぱい突き刺さってた所に星川も参戦して、オレをめぐって一触即発な空気になってりゃ、そりゃあ更に視線は鋭いものになるよ。
居た堪れない。居心地が悪い。でも折角会えた彦星と離れ離れは嫌だ。
オレは更に騒ぎになるだろうと思いながらも、意を決して文月に視線を向け、星川の手をとんとんと叩き、口元を解放してもうら。


「あの、文月。文月の気持ちは嬉しいけどさ、オレ、その気持ちには応えられない。ごめん……」

「どうして?オレじゃ不満なの?それとも笹竹も星川の方が良いって言うの?二人が仲良くしてる所、あまり見た事ないけど」

「う"……。た、確かにそうかもしれない。でも!!オレは……」


そう言葉を切って星川の方へ顔を向ける。
そんなオレの様子を、星川も不思議そうにしながら、でも期待の込められた瞳で見返してくれて。
あぁ、やっぱりオレは―――……、


「オレはずっとずっと前から星川だけが好きだった」


星川に伝わる様に、文月に答える様に、周りの生徒に知ってもらえる様に、オレははっきりと告げた。
一瞬、しんと静まり返ったが、星川がオレの手を掴んで走り出した瞬間、食堂内は今まで以上の大騒ぎとなった。




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あきゅろす。
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