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■短編■
1


長い長い年月を、一つの魂で繰り返してきた。
その日に生まれ、生まれたばかりの脳は記憶している。

―――『あなたに会いたい……』と。

だけど翌日には何事もなく、頭の片隅に追いやられた記憶と願いは、きれいさっぱり忘れて日常をごく普通に過ごすのが当たり前に繰り返された。
そしてまた一年、自分の誕生日を迎えて、思い出す。
あなたへの想い、あなたに会いたい、やっと会えるのですね、嬉しいです。
だけどあなたに会える事なく、また明日を迎えて忘れてしまう。
繰り返し、繰り返し、何年も何十年も何百年も何千年も。
いったい何時になったらあなたに会えるのでしょうか?





「……でも今は会いたくない……かも」


目が覚めて第一声がこれっていうのも如何なものかと思うが仕方がない。
上体を起こし、掌で顔を覆って溜め息を一つ零す。
俯いた視線の先に見えるのは、自分の大きくごつごつとした性別に見合った掌二つ。
なんだって今回はこの姿で生まれてしまったんだ……。
オレの名前は笹竹 織姫(ササタケ オリヒメ)。名前は女の子だけど、どこからどう見ても立派な男だ。
何故男のオレの名前が"織姫"なのか―――いや、間違っちゃいないんだけどさ、同じ魂で生まれ変わっているからなのか、新たに生まれ変わっても自然とこの名前を付けられるシステム(システムって言い方も変だけど)になっているらしく、今までは女の子として生まれてきてたから気にしなかったけど、今回に限っては何故か男として生まれてしまったのだ。
そして名前は当然ながら"織姫"を付けられる。両親も誰も疑問に思わなかったのか、とツッコミを入れたくなる事、既に十五回目。
しかもそのシステムに気付くのが年に一回、一日限りな為、ツッコミを入れるのも諦めた……というか、残りの364日のオレは気にしないのか、この名前……。
これも年に一回、この日に思うささやかな疑問。
それはそうと、何故オレがこんなファンタジーみたいな話をしているのかというと、何を隠そう、オレは正真正銘の"織姫"なのだ。
え?お前何言ってるの?、だって?
すまん、順を追って説明すると長くなるから掻い摘んで説明させて頂きますと、7月7日が七夕である事はわかるよな?
神様怒らせちゃって離れ離れになって年に一度だけ会う事を許されている織姫と彦星。有名な話だ。
その織姫が、実はオレなのだ。
……といっても昨日今日、突然なったという訳ではなく、何千年も前に織姫の魂は地上へと降りて、一人の人間として生き、そして死んだ後は魂はそのままに再び生まれてくる、を繰り返してきている。
だから今のオレは何千回目の織姫、という事になる。
何故そんな事になっているのかというと、離れ離れにされた愛しい彦星と再び巡り合い、そして再び愛し合い、今度は離れ離れにならないよう結ばれ傍にいる、そのミッションをクリアしないといけないのだ!!
クリア出来なかったらまた次の機会に、とまた年に一度だけ自分が織姫で彦星探ししなきゃという事を思い出し、日を跨げば忘れてまた一年後、という無駄な人生を繰り返さなきゃならない。
正直に言って、彦星の詳細がわからない以上ただただ面倒くさいミッションだ。
だけど、7月7日、この日だけはそのミッションを遂行しなきゃという気持ちに駆られてしまう。
だって会いたいから。愛した男に会って、また一緒にいたいから。
その気持ちだけで頑張ってきた訳だが、今回は問題がある。
そう、オレが男として生まれてきてしまった事だ!!
今までは女のままで生まれてきていたというのに、どうして今回は男なんだ?!記憶も気持ちも女だっつーのに男心もあって性格も男らしくって……複雑な心境の一言ですよ!!
彦星だって男だってーのに、どうしろって言うんですかね神様は!!
この不毛な嘆きは、生まれて自分の性別の違いに気付いた時から繰り返している訳だが、だからといって今更性別変更なんて神様がしてくれる訳もなく。
こうなったら、オレだって性別変わって生まれてきたのだから、彦星も女の子として生まれてきている可能性に希望を持とうと、自棄になったのは中学に上がる前からだったか。
自棄になる前も自棄になったあとも、彦星を探した。
同じ学校の人間、近所の知り合い、街中を行き交う人々。
限られた一日で探せる時間なんてたかが知れている。
さっきも言った通り、彦星の情報が何もない状態から探すのだから、そりゃ簡単には見付からないよな。
彦星探しをオレは十五回繰り返し、彦星が女の子で生まれてきている望みを抱きながらも高校は無情にも男子校に進学させられた訳なのだが。


「……ここ、外に出るのも一苦労なのに!!彦星探しに行けねぇじゃねーか!!しかも今日に限って外出届け出すの忘れてるし!!詰んだ!!」


「うわぁぁああッ!!」と涙ながらに布団に潜り込む。
オレの通うこの学校は全寮制の男子校で都心からほんの少し離れた位置に建てられている。
だから街に降りる際には外出届けや外泊届けを提出しないといけないのだが、それは今日ぽんと出して許可が下りる、といったものではない。
事前に、最低でも二日目から申請しないとならないのだ。
それをオレは忘れた、というか覚えている筈がない。
だって7月7日の今日に彦星探さなきゃって思い出すんだもの。
寮暮らしだし、申請は出来ないし、無断で外出れないし……高校卒業まで我慢しなきゃなんないの?


「う"ぅ〜……ひこぼしぃ……」


今の顔も名前もわからない、オレ同様に地に降りた彦星に会いたくて、会いたくて。
でも男で生まれたオレに気付いてくれるか不安で、会いたいのに会うのが怖い。
自然と涙が零れた7月7日の今日は、十六歳になるオレの誕生日だ。




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あきゅろす。
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