■短編■
6
震えるオレの身体に気付いた久瀬は少し身体を離して、まるで大丈夫だと伝えているかの様に優しく微笑んでオレの肩から腕を、落ち着かせる様に摩る。
「羨ましいよ、本当。佳賀里に好かれてるあいつらが。羨ましすぎて、ちょっと声をかけたらあっさり釣れてね。佳賀里が好きになってくれてるっていうのに、それに気付かない馬鹿な女ども……。笑いを堪えるの大変だったよ」
「く、くぜ……」
「ねぇ、佳賀里。佳賀里の思いに気付かないそんな馬鹿女なんかやめてさ、オレを選びなよ。オレなら佳賀里の事、一生好きでいてあげるし、ずっと傍にいてあげる。一生愛してあげるから、オレにしようよ」
「ね?」なんて真正面から告げられた。
オレは眉根を下げて目に溜まった涙をぽとり、ぽとりと零す。
この涙が何で出来ているのか……恐怖からなのか、または別の何かで出来ているのかわからなかった。
わからなかったけれど、オレの心の中は何故か温かいものでいっぱいになった気がした。
「……よく、わかんないけど。お前、言ったからには責任、とれよ……ッ」
「……いいの?」
「いいのってなんだよ!!どっちなんだよ!!」
「とる!!責任ちゃんととるよ!!嬉しい……夢みたいだ!!」
そうはしゃぐ久瀬を見て、また珍しいものを見たと思う反面、そこまで大喜びされるとなんだか悪い気がしないななんて思っちゃってる辺り、オレもどうかしてるんだな、きっと。
「んで。久瀬探してなんでそんな展開になる訳?しかもそれで付き合っちゃうとかなんなの。つーかお前の代返してやったオレの優しさ返せよド畜生め」
「うぅ……。代返に関しては感謝してます。今度なんかお奢ります」
「よし言ったな守れよ。……話はわかったけどさ、何?お前、久瀬の事好きだったの?好きになったの?」
「うーん……。なんつーか、素直に嬉しいと思ったんだよ。だからかな?」
「……お前も変に愛に飢えてるからなぁ……」
キャンパス内にある自販機で買った缶ジュースを飲みながらオレは友人と今度は愚痴ではなく久瀬との惚気話―――オレは惚気てるつもりはないけど、友人曰く惚気話なんだそうだ―――をしている。
正直、嬉しいと思ったのは確かなんだけど、だからといって何故付き合ったのかと聞かれると返答に困る。
本当にオレは久瀬が好きなのだろうかと、自分でも疑問に思ってしまう。
「でもさぁ。この三年間、確かにオレは久瀬の行動の意味に気付かなかったけどさ、それによってイライラしたりもしてたのにさ、理由聞いたら嬉しく思ったり、……なんか許せちゃったんだよね」
「…………お前さぁ、……あー。いや、でもなぁ……」
「なんだよ」
「あー……。お前この三年で実は久瀬の事、既に好きになってたんじゃね?」
「…………は?」
「んで、久瀬にライバル視してたってーのは本当は相手の、お前の好きになった女子になんじゃね?」
「………………意味がわからん」
「安心しろ。オレも言っててわからん」
「んん?」と二人して首を傾げていれば離れた所から「佳賀里」とオレを呼ぶ声がした。声の主は勿論、久瀬だ。
午後の講義はオレは5限があって6限は取ってなくて、逆に久瀬は5限がなくて6限を受けていた。
そしてさっきチャイムが鳴ったから講義が終わってオレの所に来たのだろう。
「今日もう帰れるのか?」
「特に用はないから平気。佳賀里は?」
「オレもないから帰ろっか。じゃ、そーゆう訳で帰るわ」
「おー。また明日なー」
友人に別れを告げてオレは久瀬と歩き出す。
キャンパス内を出るまでの間、沢山の人達の視線を受けた。
主に珍しい組み合わせだという視線と、久瀬を見る女の子の視線と黄色い声だ。
隣を見れば、気にした素振りを見せない久瀬が嬉しそうにしていた。
……なるほど、黄色い声の理由はこれか。
じっと見ていれば視線に気付いた久瀬が「何?」と目で訴えてきた。
……オレの視線には反応するのか。くっそー。
「あながち間違ってもいないのかも……」
「何が?」
「さっき話してたんだけどさ。どうやらオレは、実は久瀬の事をこの三年間の内に何時の間にか好きになってたんじゃないのかって」
「……え?」
「さっきまでは、それはないって思ってたんだけど、それがあながち間違ってもないのかもしれないって今思った。久瀬女の子に見られすぎ。なんかイヤ」
「……ねぇ、それ本当?オレの事好き?見られるのイヤなの?」
「…………よくわかんない」
「どっちなの。オレこそ心配だよ。佳賀里惚れっぽいから。また誰かに惚れたら今度は佳賀里をどうにかしちゃうよ」
「(怖ぇ事さらりと言ってのけるな……)心配すんな。オレとりあえず久瀬攻略しなきゃだから他の子目に入んない。余裕ない。てか見たくない」
(それって好きって思ってくれている事になるんじゃないのかな?)
こうして久瀬攻略という名のお付き合いがスタートしたのだった。
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2015/5/6.
ヤンデレ一途×惚れっぽい主人公でした。
果たしてヤンデレ一途感が出されているかが謎です。
書いてて楽しかったですが、なんか最後の方、無理矢理感がある気がしますが、なんといいますか……さらっと考えずに読んでくださると嬉しいです;;
何故なら書いた本人も「……?」な仕上がりなので(←)
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