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short(mix)
亜久津仁はわがままを言われたい








「おい、俺にもう付き纏うな」


「…それは、別れろってこと?」


「ああ、じゃーな」


「……………」



一昨日僕はお付き合いをしていた亜久津仁に振られた。まあ、最近女性とよく一緒にいるって噂あったし、僕は邪魔になったって事か。
これが世の中の正しい姿なんだから無理に捻じ曲げるつもりもない



「めでたしめでたし」



僕はこれからどうしようかなあ…




ーーーカンカンカンカン


カンカンカン





「おいテメー何してやがる」



誰かに腕を引かれ歩みを止めさせられる



「あれ、仁だ」


(あ、踏切。ボーっとしすぎてたな)



「死にてえのか」


「そうゆう訳じゃなかったけど…まあ確かに君に止められてなかったら死んでたかもね」


「ハッ、俺に振られて自棄になったのかと思ったぜ」


「それなら好きじゃなくなった人を助ける亜久津くんは随分優しい人間なんだね。ますます惚れちゃった」



そう言うと仁は眉間に皺を寄せる



「テメー、本当に俺のこと好きだったのかよ」


「うん。それなりにね」


「じゃあ何で追いかけねえ」


「君に付き纏うなって言われたから?」


「なっ、…あのなあ、前から思ってたがテメーの意思はどこにあんだよ」


「?」


「何でもかんでも俺に言われるがまま行動してんじゃねーっつってんだよ。嫌なものは嫌って言え。して欲しい事あんならテメーなら特別に聞いてやらなくもねぇ」



人に物を言われる事を嫌う仁がここまで言ってくれるなんて…

僕だって、意思はある。
けど君に嫌われない様に必死だったんだ。

二年の時、教室も図書室も騒がしく、仕方なく裏庭で読書をしていたら先輩達が通りかかってその先輩達はやけにピリピリしていた。僕はその場に居合わせたってだけで絡まれて、面倒ごとに巻き込まれるのはごめんと思い適当にあしらおうとしたら態度が気に入らなかったらしくていきなり胸ぐらを掴まれた。
抵抗せずにいたら次は拳を握り振りかざされる。痛いのはやだなぁと思ったその時、その先輩はバタリと倒れる。



「おい、楽しそうなことしてんじゃねーか。俺も混ぜろや」



目の前で巻き起こる抗争。次々と先輩達を倒していく彼、僕はボーっと見ていた。



「テメーで最後かよ」



そういうと彼は僕に向かって歩く
拳を振り殴られるのかとジーッと見ていたら顔の目の前でその拳が止まる。



「なんだ、かかって来ねーのかよ」


「僕、巻き込まれてただけなんで」


「そーかよ。やり合う意思のねー奴ぶちのめしてもつまんねーし見逃してやるよ」



助けてくれてありがとうって言うと助けたつもりは無いって言ってたけど、そんな事は関係なかった。僕には先輩に物怖じせず立ち向かうそんな君が輝いて見えた。

また裏庭にいれば彼に会えるかなと裏庭に通った。1ヶ月半くらい経ち、季節は変わりじわじわ暑くて文章が頭に入って来ないなって思いながら本を眺めていたら突然大きく日陰が出来る。



「あ、亜久津くんだ」


「んだテメェ、俺のこと知ってんのかよ」


「うん」


「チッ、まあいい。テメーこんなクソあちい中よく本なんぞ読めるな。見てるこっちが暑苦しいから今すぐやめろ」


「君が友達になってくれるならやめるよ」


「あ"!!?誰に口きいてんだテメー。ぶっ飛ばされてーのか?」



胸ぐらを掴まれたが恐怖はなかった。むしろやっと彼に会えて僕は嬉しさが勝っていた



「無理なら諦める。僕はここで本読んでる」


「…チッ、友達でもなんでもなってやるからさっさと来い」



そう腕を引かれ連れて来られたのは使われていない空き教室。慣れた手つきで鍵を壊し彼はクーラーをガンガンにつけドカリと椅子に座る



「ねえ、僕明日の昼もあそこで本読んでるかも」


「ケッ、知らねーよ」



そう言いながら次の日もまた次の日も彼はあの場所に来てくれて僕を涼しい空き教室へ引っ張ってくれた



「仁」


「あ"!!?テメェ…今なんつった?」



胸ぐらを急に掴まれて少し驚くが構わず続ける



「僕たち友達だし、名前で呼んでいいよね?」


「ダメだ、気安く呼ぶんじゃねーよ」


「あ、友達って事は否定しないんだね」



チッと舌打ちをして胸ぐらを掴んでいた手を離ししばらく沈黙が続き彼が口を開く



「そんなに名前で呼びてーかよ」


「うん」


「なら俺と付き合え」


「え?」


「チッ、なんでもねーよ」


「それって告白?」


「聞こえてんじゃねーかよ!ざけんじゃ…」


「よろしく。仁」


「ケッ……」



僕は僕のヒーローに嫌われたくなかった。
けど、その努力の結果残念ながら彼は離れていってしまった。
君の為に僕はそれを受け入れるしかない。ただそれだけ

僕が黙っていると仁は大きく舌打ちをした



「テメー俺のこと好きって言ってみせろ」


「へ?何で?」


「言ったことねーだろーが」


「けど…振られて別れた相手に今更好きって言うなんて、なんかかっこ悪くない?」


「ならテメーの気を引く為に振ってまんまと別れちまって、まだテメーの事が気になってる俺はもっとかっこ悪りぃな」


「え、それって…」


「チッ……」


「先に言ってくれるなら…」


「あ"!?」


「仁が先に言ってくれるなら、言う」


「なっ!アホかテメーは!」


「嫌ならいい」


「い、嫌とは言ってねぇ!」


「……………」



さっきして欲しい事があるなら聞いてやらなくもないって言ってたし、仁の性格上この言葉を撤回することもないだろう。それに、僕の初めての要望。僕は仁が断れないのを分かっててこんなわがままを言ってみた。



「いいか、一回しか言わねーぞ」


「うん」



あの仁がここまでしてくれるなら、これからはもっとわがまま言ってみようかな





(プッ、クスクス……)

(おい、いつまで笑ってやがる)

(だって…僕の告白がまさか踏切警報の音と被っちゃうとは……ふふっ)

(…………)

(落ち込まないで仁。君がまた好きって言ってくれたらいつでも言うからさ)

(落ち込んでねぇ!ドタマカチ割んぞ!)











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あきゅろす。
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