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お目覚めはシャワーで




昨夜カーテンを閉め忘れた窓から朝の日が射し込んでくる。それが瞼に刺さって煩わしくて、いつもなら夢の中のような時間帯に目が覚めてしまった。もっとも、一般的で健康的な生活を送る人から見ればこの時間なんてきっと食後のコーヒーを飲んでいる時間だろうけれど。
顔を横に向けるとすぐ隣には眩しい金髪が見えた。窓側に背を向け体を丸めて、まるで猫科か何かがとるような体勢で眠る男の姿。薄手の掛け布団に顔を埋めているからどんな表情かは分からないが、大体察しはついた。布団からはみ出た金の髪は日射しを受けて透き通り、艶のある表面を反射する光が目に痛いくらいだ。普段ならば朝からの訓練の習慣で少なくとも自分よりは早く目覚めているグラハムが、今日はオフということもあってか珍しくまだ眠っていた。疲れただろうか、昨夜の情事は酒のせいもあって少し悪ふざけが過ぎたかもしれない。
ゆっくりとした呼吸に合わせて小さく上下に揺れる布団が波のようだなんて思いながら、そっと布団を捲ってみる。久しぶりに見た彼の寝顔はやはり年のわりに幼さの残る顔でそれでいて至極幸せそうだった。柔らかな唇は僅かにカーブを描いていて、通った鼻筋には光が当たる。長い睫毛が佇む目元は少し腫れていた。神に祝福されたようなその面立ちを歪ませてしまった罪悪感が朝からなんだか苦い。極力慎重に、中指だけで瞼に触れるとふるりと皮膚が震え次には大きなエメラルドの瞳が現れた。
「…やぁ、おはよう。今日はいい日だよ」
予想以上に彼の眠りは浅くて驚いてしまったが、何事もないかのように微笑んで見せた。瞼に触れた指を流れるように額に向けて光の加減でプラチナにも見える髪をすく。
「随分と珍しいね、君が僕よりも眠っているなんて」
「…今日は君がいつもより早く起きた、というだけだろう」
「まぁ、そうだね」
開口一番素っ気ない物言いと共にグラハムは上体を起こした。もう少し情緒のある会話をしたいものだな、なんて言ったらきっと拗ねてしまうね。起き上がった彼につられるように、寝そべっていた自分も体温でぬるくなった布団から身を起こす。
寝起きの彼は薄紅の肌を陽に照らし遠くを見るような目でしわくちゃになったシーツを眺めていた。

どうしてそんな目をするんだろうね。

「シャワーを浴びてくる」
そう言い残していつの間にかベッドから下りたグラハムはバスルームへ足を向けた。物音少なく、そして裸の背中でしなやかに動く筋肉がやっぱり猫みたいだなんて、言ったらきっと笑われる。
普段の彼は回りのことなんて気にも止めない風で物音も遠慮なしなのに、こんな朝にはすごく静かに動くものだから、唐突に、守らなくては、なんて庇護精神が突き上げるようにして涌いてくる。
すごく静かで、そしてすごく寂しそうな顔をする。

目頭を親指と中指で押さえ、その流れで眼鏡を手にした。視界が明確になり夢の世界から現実に戻る。さて、と呟きながらベッドから立ち上がり適当なシャツを羽織る。ズボンを穿いて、流れてくる髪を束ねた。
朝食を作ろうか、規則正しく動く彼のために。



サラダを作り、卵を茹でて、トーストを焼き、熱いコーヒーを淹れる。するとちょうどにグラハムは戻ってくる。バタンと音をたてて扉を閉め、バスローブ姿で近寄ってくると、彼は束ねた髪を一束掴んでそこに口付けた。
腫れているように見えた目元はすっかり元通りだ。
「お早う、カタギリ」
「…おはよう」
いつもの勝ち気な笑みがそこにあって、ついこちらまで笑ってしまった。

おかえり、いつもの君。

一瞬見られる物憂げな君も好きだけれど、静かな君もそそるけれど、いつもの君がやっぱり一番好きなんだ。




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寝起きは静かなグラハム。










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