たった2文字が言えなくて

「―――――忘れていいよ、僕のこと」


あの日、どうしても言えなかった言葉。

イッキさんと離れることになった、あの日。

忘れていい、と。
自分のことを忘れていいという彼にただ「忘れない」としか言えなかった。


イッキさんへの想いは私の中に確かにあったけれど、どうしても覚悟が出来なくて。
私の想いの大きさとイッキさんの想いの大きさは全然違ったから。
だから、軽々しく口にすることが出来なくて、そのまま私は彼に何も言えずに離れてしまった。



距離が開いて、より実感した彼の大切さ。
あの日から、私の中の彼の面影はどんどん、どんどん大きくなっていって。
日がたつにつれて、彼への想いが重くなってゆく。


いつでも電話もメールもしていいと、彼は言っていたけれど。
未だにできないでいる、それ。


声を聞けば、きっとすぐに会いたくなってしまうから。
メールをすれば、きっと彼の優しさに泣いてしまうから。

彼を困らせたくない、なんて理由で。




…いや、本音はもっと別のところにあるだろう。


(もし、イッキさんの想いが私にもうなかったら……?)


彼のことを疑っているつもりはもっとうない。
あの日の、彼の想いは確かに私に向いていて、本物だった。
それを受け止めきれなかったのは私なのだから。


でも、時が経てば人の想いというのは変わるもので。
彼と別れてからそれなりの時が経った。
彼は自分からはメールも電話もしないと言っていたから、あれから1度も連絡はとっていない。

だから、怖いのだ。
時間が空けば空くほど、彼の想いが未だ自分に向いているのか分からなくて。



だって、彼はモテるから。
彼の目には女の子を惑わす魅力がある。

その目のせいで、彼は凄く悩んで、苦しんでいたけれど。


それでも、もし、

もしも、彼の目じゃなくて、彼自身を好きになる女の子が現れたら……?
もしも、私の様に、彼の目が効かない女の子が現れたら……?
もしも、今付き合っている女の子がいたら……?


彼の想いを受け止めきれなかった私が、こんなことを思うなんて理不尽かもしれない。
今頃になって、彼を求めるなんて。
彼はきっと優しいから、私が連絡をとれば、きっと何事もないように相手をしてくれるだろう。
会いたい、とそう一言告げれば会いに来てくれるだろう。


彼は、とても優しいから。


それでも、日々を重ねれば重ねるほど、彼への想いが重くなって、辛くて。
彼の優しさに甘えるように、指が勝手に動いてしまった。



【会いたい】


そんな想いを込めて。











彼からのメールの返事はすぐに来て。



【今度の土日は、ヒマ?】




今度こそ、伝えられるかな。

あの日言えなかった言葉、彼への想いを。











「イッキさん、お久しぶりです」

「ああ、マイ。久しぶり」


久しぶりに会った彼は、全然変わっていなくて。
前の様に、優しい声で名前を呼んで、笑いかけてくれる。

やっぱり、彼は優しい。



「私、イッキさんとどうしても行きたいところがあって」

「ん?どこ?」

「……秘密です。ついてきて下さい」


彼とどうしても行きたかった場所。
とても、星が綺麗に見える場所。


「うわっ、凄いね……満点の星空じゃない」

「はい、偶然見つけたんです。今日は流星群も見れるらしいですよ」


初めてこの場所を見つけた時、彼と来たいと思った。
この場所で、彼に想いを告げたいと。


「イッキさん…まだ、告白とか、されますか?」

「ん……?ああ、そうだね。よくされてるよ、この目のせいでね、相変わらず」


流れ星に願ったせいで、彼の目はこんな力を持ってしまったと、彼は言っていた。


「…今、付き合ってる人とかは、」

「…いない、かな。もう、誰かと付き合うって気分じゃないから」


もし、今私が願えば、神様は叶えてくれるだろうか。

私の、彼への想いが届かなくても、彼が幸せになれますようにって。





ねぇお願いします、神様。
私も頑張るから、勇気を出して、想いを伝えるから。


だから叶えて。彼の幸せを。



「あの、私、イッキさんに言いたいことがあって」

「……ん?なに?」









2



今度こそ、伝えるから、



「イッキさん、私、イッキさんのことが――――――」


貴方が「好き」だと



あきゅろす。
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