+*カナリヤ

私が物心ついた時から傍には彼がいた。
毎日毎日、彼の背中を追いかけていた。


『イッキお兄ちゃん』


そんな風に声をかければ彼は必ず振り向いて私の元に来て、私に笑いかけてくれた。

幼いながらも、彼に抱いていた憧れの感情。
年を重ねるにつれ、それが恋慕の情になるのは自然なものだった。

けれども、恋だ愛だと彼への想いが募るのに比例して彼との距離は離れていった。

いつしか彼の周りには女性が絶えなくなった。
中学生の時だったと思う。いつも、呼べば振り向いて私の元へやってきてくれた彼に始めて断られて。


「ごめん、マイ。今日は一人で帰れる?」


その時に、彼の周りには女の子がたくさんいて。
小学生の時から、ある日を境に彼を好きだという女の子が増えていたけれど、でも、私が一番だと思っていた。私が一番、誰よりも彼を知っていて、誰よりも彼に近いと。


けれど、彼から始めて否定の言葉を向けられたとき、それから私と彼の距離が離れ始めた。
その時だけだと思っていた言葉が、毎日のものになっていって。
いつしかその言葉を聞きたくなくて私から声をかけることもなくなっていった。

それでも、時が経てば経つほど、彼への想いは消えるどころか増すばかりで。

そのまま彼ともう追い付けないほど離れてしまえば諦められたのかもしれない。
中途半端に離れた距離。
幼馴染みという近いようで一番遠い関係。

壊そうと思ったこともあった。この幼馴染みという関係を。
でも、

「マイだけだよ……唯一本当の僕を見てくれる女の子は……」

彼は、「幼馴染みとしての私」に好意を抱いているから。
だから、この想いを告げてはいけないの。



そう、思っていた。

『イッキ………?』

けれど、

「あ、目が覚めた?」


どうして私は、彼に押し倒されているんだろう。
どうして私の手に、鎖が繋がっているのだろう。


「君が悪いんだよ?僕に何も言わないから。僕に何も言わずに彼氏なんて作るから。関係ないなんて言うから」


そうだ。
私はイッキに家に呼ばれて、どこで聞いたのかは知らないが彼氏の事を尋ねられて。
イッキの事を忘れるために作った彼氏。
まるでそれが悪いことのように聞くから、思わず言ってしまった言葉。

イッキには関係がないと。

そう私が言うと、彼は自嘲気味に微笑んで、頭を強く引き寄せられて、
キスをされて、何か薬のようなものを飲まされた。

そのまま意識を失って、目を覚ませばこの情態だ。

どうしてこうなったのかと私が思考を回転させていると、私の顔の横にあったイッキの手がそっと私の頬に触れる。


「なんでこんなことするのか……って顔してる」

『イッ、キ……?』


私の頬に寄せられた手がそっと肌をなぞるように移動する。


「ねぇ、気付いてた?僕、ずっとマイが好きだったんだよ?」

『え、』


私の肌に指を動かしながら告げられた言葉に、私の思考が停止する。


『う、そ………』


だって私は、私と彼は、


『だって、私達は、ただの幼馴染みでっ…』

「あぁ、マイはずっとそう思ってたんだよね。知ってたよ。全部」

『………え、?』


知ってる?なにを?


「全部知ってたよ。マイが僕のことを好きなことも。だからこそ、幼馴染みっていう関係で居てくれたことも」


なにを言っているの?


「だから安心してたんだけど。駄目じゃない、彼氏なんて作っちゃ。マイはずっと僕のことを見てなくちゃいけないのに。僕がその為に裏でどれだけ努力してたか知ってる?君に近付く人皆に釘を刺すって結構大変なんだよ?」


私が呆然としていると、私の肌を這っていたイッキの指が、私の手首に繋がれた鎖に触れる。


「でも、やっぱりそれじゃ足りなかったみたいだね。マイが僕のことを好きだって、ちょっと自惚れてたかも」

『……いッッ、やッッ…!?』


イッキの顔が首筋に寄せられてそのまま噛みつかれる。


『イッ、キ、やめ……ッッ』

「最初から、こうすればよかったんだよね。なに遠慮してたんだろ」


そのままいくつも痕を付けるように噛みつかれて。


「ん……、こうやって僕のものって印をつけて、閉じ込めて、」

『や、やだ、イッキ、やめ……』

「そうすれば、マイは僕だけを見てくれるよね……なんでもっと早く気付かなかったんだろ」

「ねぇ、イッキ!」


どこで間違ってしまったんだろう。
いつから、彼は私にそんなに依存していたのか。
なにが、彼をこんなに狂わせたのか。

前に、イッキはこう言っていた。
僕を好きだという女の子は皆僕じゃなくて僕の目に恋をしているんだ、と。

偽物の愛に囲まれて、おかしくなったのか。
だからこそ、目なんて関係のない幼い頃から傍にいた私を求めたのか。

私には、何も分からないけれど、でも、


「愛してるよ、マイ……もう、」


それでも、願って止まなかった言葉を彼から向けられるこの状況に、


「君は、僕だけのものだから」


心の底から嬉しさを感じる私は、どうやら彼と同じくらい狂っているのかもしれない。


『……イッキ』

「ん?」

『私も、愛してる』

「………知ってる」

『イッキも、私のものだよね…?』

「……マイが望むなら、もちろん」


どうやら、私も、彼も、お互いに囚われているのかもしれない。










貴方が望むなら
君が望むなら

檻の中で鳴き続けましょう
愛の言葉を



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