最初から、幸せになんてなれる筈がなかったの―――――
ずっとずっと、消えちゃいたいと思っていた。
この世界はどこか息苦しくて、周りにいる他人全てが鬱陶しくて。
だけど、独りにはなりたくないの。
独りでいると、真っ暗な世界に閉じ込められていたあの頃を思い出してしまうから。
そんなのおかしいよね、あたしはもう独りじゃないのに。
「マイ、黙り込んじゃってどうしたの。 もしかして体調悪いとか?」
こうして彼が隣にいてくれるだけで、柄にもなく『幸せだなぁ』、とか思っちゃったりして。
ずっと独りきりでいた所為か、こうして隣に誰かがいてくれるだけで凄く心地良く感じるの。
今でも他人は嫌いだけど、彼だけにはそばにいて欲しい、あたしだけを見ていて欲しいって思うんだ。
「ううん、なんでもない。気にしないで。ちょっと考えごとしてただけだから。」
「そう? なら良いけど...。あ、でも、本当に体調悪くなったら遠慮なく僕に言ってよね。」
「うん、そうする。イッキには隠し事とかしたくないし、ちゃんと言うよ。だから...その時は、思いっきり甘えたいなー。...良い、よね?」
「承知しました、お嬢様。......なんてね。君にそんなこと言われたら、甘やかさないわけにはいかないじゃない。」
そう言いながらあたしの隣で微笑む彼がすごく愛しくて。
大切にしたいし、そうしなきゃって思うんだけど、でも同じくらい壊したいって思っちゃうの。
その手と足を切り落としてしまえば、あたしのそばにずっといてくれるかな。
その目を取り出してしまえば、ずっとあたしだけを見てくれるかな。
―――――ねぇ、どうしたらアタシダケノモノになってくれるの?
「あ、そうだ。何か飲み物取ってくるよ。コーヒーで良いよね?」
「...うん、良いよ。」
座っていたソファから立ち上がった彼の姿は、暗いキッチンへと飲み込まれて消える。
それと同時に、まるで心にポッカリと穴が空いたかのように虚しさを感じて。
ねぇ、貴方はまだ気づいていないんでしょう?
あたしが着てるジャケットの左側にあるポケットに、いつもナイフが入ってる事―――――
「お待たせ...ってマイ、何してるの危ないでしょ!?」
やっぱり、『コレ』を見たら彼でも驚くのね。
でも、もう止められないの。
だから...だから、せめてお願いです。
こんな弱いあたしだけど、貴方は許してくれますように。
「ごめんね、ごめんね...イッキ。でも、あたしはやっぱり弱いから。もう、こうするしかないの......。」
「えっ...。」
彼の左胸にナイフが突き刺さって、視界いっぱいに鮮血色が広がる。
それさえも愛しいって思えるなんて、やっぱり重症なのかしら。
でもね、ひとつだけおかしい事があるんだ。
こうすれば、こうすればあたしだけを見てくれるって思ってたのに、どうして目を開いてくれないの...?
そっか、あたしもイッキと同じところに行けば良いんだ。
だってそうすれば、ずっと一緒にいられるじゃない。
不意に風が頬を撫でて、不意に我に返る。
その所為で、気が付いちゃったんだ。
最初から、あたしが幸せになんてなれる筈なかったって事に。
だってあたしは......
『ヒトゴロシ』、ナンダカラ―――――
どうして歯車がかみ合わなくなっちゃったんだろう。
あたしも彼も、きっとただお互いを愛しすぎてただけなんだよね。
ねぇ、貴方はあたしのこと待っててくれるかな。きっと待っててくれるよね。
すぐには行けないかもしれないけど、必ずそっちに行くから、待ってて。
イッキと同じ場所に行く為なら、この痛みだって受け入れるから。
だから今度は...今度こそ必ず、ふたり一緒にいようね。
嗚呼、星が綺麗だな、なんて柄にもなく思っちゃったりなんかして。
薄れゆく意識の中、最後に瞳に映ったものは―――――
痛みの果てにある幻想郷
(あたしも彼も、幸せにはなれないけれど)
(これがきっと、二人だけのTRUE END)